第1章「 伝わる」映像表現

6.表層感情と深層感情に届ける

それぞれ異なる特徴

感情を球体とした場合、外部の表面的な部分を表層感情といい、内部の奥深い部分を深層感情といいます。映像表現で感情を揺さぶる行為はこの感情球体に刺激を与え、内部に掘り進む行為だとイメージしてください。表層感情は刺激しやすいものの記憶に残りにくく、深層感情は刺激しにくい反面、記憶に残りやすい傾向があります。

映像で心の芯まで震える感動を与えるためには、いかに短い時間で深層感情までたどり着けるかを考えなければなりません。わかりやすくイメージしてもらうために、ここで「情動喚起」をダイナマイト、「感情移入」をスコップにたとえてみます。

[図表1]「情動喚起」と「感情移入」

情動喚起と感情移入を交互に促す

ダイナマイト(情動喚起)は体力を使わなくても一瞬で広い範囲を吹き飛ばすことができますが、深く掘ることはできません。それに対してスコップ(感情移入)は自分の手で少しずつ掘り進めるため時間と体力がいりますが、確実に内部まで掘り進むことが
できます。

より早く確実に掘り進めるにはダイナマイト(情動喚起)とスコップ(感情移入)を両方使うと効果的です。情動喚起と感情移入を交互に促すことが効率よく感情を揺さぶる最大のコツなのです。
 

[図表2]情動喚起と感情移入を交互に促すことが効率よく感情を揺さぶる最大のコツ

7.「伝えたいこと」と「抱かせたい感情」の言語化

言語化によってイメージを明確にする

映像表現において重要なことは、「伝えたいこと」を視聴者に理解してもらい、「抱かせたい感情」に導くことです。そのゴールをより明確化するために「伝えたいこと」と「抱かせたい感情」を言語化することが、映像表現における重要な第一歩です。

この言語化は簡単なようでなかなか難しいものです。特に1人で制作をしている場合、なんとなく頭のなかでイメージは決まっていても、言葉にはできない人が多いのではないでしょうか。

「伝えたいこと」は「情報」と「メッセージ」の2つに大きく分けられます。情報とは「商品の特徴」「イベントの内容」「世界の歴史」など物理的に存在している事実や出来事の内容、その知識を指します。

メッセージとは「争いはよくない」「愛が大切だ」「苦しみの先に光がある」など、想いや教訓、思想など目に見えない精神的な観念を指します。そして「抱かせたい感情」は情動喚起と感情移入で促すことができます。

[図表3]言語化はできるだけ具体的に

言語化はできるだけ具体的に

特に「抱かせたい感情」は曖昧なイメージになりがちですから、映像を制作する前に、具体的に言語化する必要があります。喚起させたい情動の言語化は、「きれい!」「すごい!」などのように、短い単語で表すことができます。

感情移入を促す場面の言語化は「子供の頃を思い出すワクワク感」「中学生の初恋のような甘酸っぱさ」など、視聴者の体験や記憶に訴えかける物語をイメージさせる言葉にするとよいでしょう。言語化しても「カッコいい感じ」「楽しい感じ」などのように漠然とした言葉は、映像表現も漠然としたものになってしまいます。

「頭のなかに明確なイメージがあるから言語化なんか必要ない!」と思っている人がいるかもしれません。しかし、「頭のなかのイメージ」を「具体的な言葉」にすることで確実に結果が異なります。「言葉にできない感情」を映像で表現するためには「言葉」が必要なのです。

映像表現は多様な解釈ができるため、曖昧なものともいえます。これを論理的思考で構成するためには、言葉という明確な意味をもつツールを使用すると計算がしやすくなります。言語で明確な意味づけをし、再び映像という曖昧なイメージで表現するのです。

[図表4]言葉という明確な意味をもつツールを使用する
※本記事は、2020年5月刊行の書籍『伝わる映像 感情を揺さぶる映像表現のしくみ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。