真実

種男百五番はバルコニーから外へ出て近所を眺めていた。女が作る女だけの町。ごみひとつない花であふれた町。あわいピンクやライトグリーンの家々。もう道路なんていうものは存在しない。

皆空路を利用しその空路の安全性は過去百年のデータを見ればわかるとおり、事故にあったことがない。 

時間の修正は二~三時間以内ならできるようにもなった。たとえば何か事故があったとしたら時間をワープし、修正できる。ただ三時間を超えた場合はそれがたとえ一秒でもできないことになっている。

種男百五番はこの時間修正法を身につけている貴重な百人の一人だ。この修正法を知っているがためにありとあらゆる国家機密をべらべらと女たちに喋っておいて三時間以内にその会話場面を修正してしまうのだ。

そうやって彼は今まで自分の置かれた立場の矛盾さを外に出し話すことによって発散させていた。

美紀はラフな部屋着に着替えて種男百五番のためにコーヒーを淹れた。種男百五番は美紀が予想したとおり、国が今取り組んでいる人口対策についてぺらぺらと話し出した。

種男百五番によると、これから三十年以内に種男たちを総入れ替えする計画がある。これはこの国の血が濃くなりすぎるのを防ぐためである。種男たちの中には貸し出しされるのを妙に嫌がる者が最近続出している。疑問を持たないように種男たちを育てている乳母たちであったが自然の原理に逆らった形での種の保存方法に限界が生じてきていると指摘する科学者も出てきていた。

教育だけでは解決できない、種男たちの本能が女たちの世界を脅かし始めているのも事実であった。

種男百五番の話を聞きながら、美紀は全てを録音し、コンピューターにそのデータを永久保存した。美紀のコンピューターは国際弁護士用のコンピューターで、美紀に何かあったときには、最高裁判所付きのコンピューター技師にしかそのデータは開けられないようになっていた。

種男百五番は少しもあわてなかった。美紀がどんなことをしても三時間以内にタイムワープをし今話している全ての事実を消してしまえばいいのだから。