研究、薬剤の開発、社会的ケアのいずれの面においても、認知症は世界規模でエネルギッシュな活動が展開されています。しかし、認知症の人を抱えている家族や本人は、それぞれの違った環境の中で質のよい日常生活を送るため、日々改善策を模索しているのが現状です。

認知症の人を施設や病院に送って、自分の視界から消えたといっても問題は解決していません。認知症をめぐる問題を自分と関係したこととして、責任をもって捉えることが必要でしょう。

現在、介護保険制度が予想どおり社会に定着してきたため、諸制度や諸施設がよく利用されています。しかし、介護保険制度がよく整備され、利用度も高いからといって、喜んでばかりはいられません。今後、さらに高齢者が増えると見込まれていますので、益々保険料が高くなったり、地方自治体の財政も圧迫されたりしていくと予想されています。

経済的負担を軽くするための方策として、いくつかの途が考えられます。一つの手はアルツハイマー病などを根絶することです。

病気の根絶といえばすぐ思い出すのが「天然痘」とか「小児麻痺」です。これらはワクチンを打つことによって根絶できました。それにならって、アルツハイマー病の重要な原因物質であるアミロイドに対するワクチンを接種する試みが20年ほど前より、試行錯誤を経て最近、アルツハイマー病予防効果が見られるようになりました。改良したワクチンを用いて、日米で治験が行われています。

その後、ワクチンの種類を改良して、副作用のないものを開発する努力がアメリカで進められ、最近良い結果が報告されました。現在、日米で試験が行われています。

また、蛋白分解酵素の阻害薬を使って、アミロイドを減らす試みも進められました。20年間、世界中の研究者が協力してアルツハイマー病を根本的に治癒させる薬について治験による効果が検討されましたが、ここへ来て、やっと明かりが見えてきました。

さらに、多数の人を対象にした疫学的研究からビタミンEの少ない食事、高血圧、糖尿病、高ホモシステイン血症がアルツハイマー病になりやすいことが分かりました。それらのデータを基に、生活習慣の改善によりアルツハイマー病を予防する努力が進められています。

また、介護保険制度の下に多くのケアが実施されています。しかし、それらのケアが本当に認知症の人を幸せにする上で有効かどうかを検証する必要があります。というのも、介護保険料を際限なく値上げすることは困難であり、経済的な理由から効率のよいケアを追求する日が近い将来来ると思われるからです。

そのような観点から、介護保険制度で行われているケアの効果を科学的に評価する研究が進み、有効性が明らかにされています。

その状況を踏まえて、再度クローズアップされるのが地域からの支援を加えた「家族によるケア」ではないかと考えられます。少子高齢化社会において、認知症の人をどう治療・ケアするかはわが国における重大な問題です。

認知症の人に関わる社会の動き
※本記事は、2021年4月刊行の書籍『認知症の人が見る景色 正しい理解と寄り添う介護のために』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。