〈たー♥と、また東北に行けるなんて楽しみ♥〉

孝雄は明日から一泊二日で、東日本大震災の被災地へボランティアに行くことになっていた。「役員として会社の代表で行くから出張扱いだ」と説明していたけれど……なんとなく怪しいと思っていて、これも的中。

今回は二回目で、一回目に行ったのは、義母が亡くなる直前のゴールデンウィーク中だった。心菜さんのメールに〈また〉とあるので、前回も一緒だったことがわかる。事実として、着信履歴をさらにずっと、ずーっと、五月までスクロールしたら、こんなメールが残っていた。

〈たー、もうこっちには着いた? 心菜は、お風呂に入ったとこもう少ししたら先に寝てるね♥アハハ♥気をつけて♥〉

(やっぱり、そうだったんや……)

その時の宿泊先を、後日、クレジットカードの利用明細をもとに調べてみたら、沿岸部からずいぶん離れたところにあるリゾートホテルだった。本人いわく、「どこもいっぱいで……」とのことだったが、(いくらいっぱいでも、ここまで離れた場所にホテルをとる?)と疑問に思い、腑に落ちないままだったことを思い出したのだ。当時は義母が入院していて、病院に通うのに忙しくて、いつのまにか忘れてしまっていたけれど……。

(七千円振り込んだっていうあのメール……明日の交通費やろか……)

頭の中がモヤモヤしてきて、夫がお風呂から出てきた時、ついに、

「もう、耐えられない! 頭がおかしくなりそうや!」

と、私が訴えると、夫が怒鳴った。

「おまえ最近おかしいぞ! そんなんやったら実家に帰ってもいいぞ!」

八月一日(月)

夫を何事もなかったかのように、いつも通り駅まで送り届ける。夫もやはり、何事もなかったかのように、無言のまま、いつものようにスーツ姿で出かけていった。午前九時十五分のJR……心菜さんが前乗りして待っている電車に乗るために……。

夫を見送ってから、ふたたび気持ちが不安定になった私は、半ば衝動的に携帯電話を取り出し、昨夜、自分の携帯電話に登録しておいた心菜さんのアドレス宛にメールを送ってしまっていた。

〈私は「たー」の家内、ふざけんな! 訴えるぞ〉

その後、心菜さんからは何の反応もなかったが、なぜか、一晩泊まりで東北に出かけていったはずの夫が……夜の十一時頃に帰ってきた! 私は一階のリビングで寝たふりをしていたが、バレバレだったようで、

「たぶん仕事を辞めると思う。そんなに嫌なら実家に帰ってもいいよ」

と、夫が立ったまま私の足元で言った。

(んっ!!)と思ったが、目を瞑っていたら、そのまま眠ってしまっていた。

※本記事は、2021年4月刊行の書籍『夫 失格』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。