正月の風物詩とも言える箱瀬駅伝は、奥田家にとっても恒例行事である。お父さんは駅伝強豪校の世広高校出身で、箱瀬駅伝では毎年、世広高校出身の選手を応援する。その影響もあって、由大も駅伝に興味を持つようになり、将来は世広高校駅伝部に入るという目標を持つようになった。

まずは、この春に小学校を卒業した後、地元の世広中学へ入学して駅伝部に入部するつもりだ。そのためにも、毎朝5kmを走ることを日課としている。

汗を拭きながらテレビの前に座り、テレビに視線を移すと、ちょうど各チームが中継しているところだ。先頭ではないチームだったが、懸命のラストスパートの後にたすきを渡した選手がその場に倒れこんでいた。持ちうる力全てを出し尽くしたように。

以前は倒れるまで走ることの意味が分からなかったが、由大自身も今まで参加してきた駅伝大会を経験して、チームの一体感、絆、というものを感じるようになっていた。「みんなのために頑張る」これこそがマラソンにはない駅伝独特の魅力であり、由大が駅伝好きになった一番の理由である。

「駅伝は個人競技じゃないぞ。他のメンバーのためにも一秒でも早くたすきを繋ぐんだ。自分のためではなく、人のために、チームのために、大学のために力を振り絞るんだ。時にはブレーキになる選手もいる。この大会に出たくても出られない選手もいる。このたすきにはいろんなエピソードが込められているんだ。これが箱瀬駅伝の魅力じゃね」

毎年、お父さんは箱瀬駅伝のことになると、いつになく雄弁になる。

駅伝は、一本の“たすき”をチーム一丸となってゴールまで運ぶ。そのコースはトラック競技と違ってロードレースとなり、上りもあれば下りもある。選手によっては上りに強い選手もいれば、下りを得意としている選手もいる。先行逃げ切りタイプ、後半追い上げタイプなどといった要素も絡んでくる。

また、選手にとっても個人レースとは違って、「自分の走り次第で順位が大きく変わるかもしれない」という責任、プレッシャーが大きくのしかかってくる。それは、プラスの力になることもあれば、反対にマイナスに働いて全く力を出し切れずに終わってしまうこともある。レース展開によっては、走り方を変えたりする必要もあり、いろんな駆け引きも見られる。

駅伝は、こういった複雑に絡み合った不確定要素によって最後まで何が起こるか分からない、筋書きの無いドラマになる。これが駅伝の醍醐味だ。

スタートから繋がれる“たすき”は、選手、そしてチームの思いを込めて、次の選手へと託されていき、ゴールまで大切に大切に繋がれていく。

その駅伝に関わる全ての人々の思いが結集した“たすき”は、駅伝の象徴であり、その“たすき”を受け継いでいく駅伝は、ある意味、魂のリレーと言ってもいいような気がする。

※本記事は、2021年4月刊行の書籍『たすき』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。