刺激を介する精神・心理療法

グループで手芸・ゲーム・ペットと遊ぶなどレクリエーション、音楽・ダンス・美術といった刺激によって知能や行動の障害を良くしようという治療法です。これらは神経系を刺激して、神経機能を強化し、認知症の人の認知能力を引き出す可能性があります。日本でもデイサービスやデイケアで行われ、介護保険により利用する人が増えています。

デイサービスやデイケアの有効性は外国で検討されました。22施設入所者2867名を対象にデイサービスやケアを受けなかった人と比較されました。デイサービスやデイケアを受けた人では死亡が少なく、日常動作が保たれ、悪化の程度も軽度になると報告されています。

音楽療法がヨーロッパを中心に活発に行われ、日本でもよく行われています。音楽療法は食事、入浴中に現れる興奮、攻撃性、感情障害を鎮静する効果があります。

歩行など適度の運動やリハビリテーションが、徘徊、攻撃性、興奮を少なくするようです。リハビリテーションやマッサージを適切にすると孤独感が減って徘徊、攻撃性、興奮が低下することがあります。犬などのペットやITを備えた玩具が、認知症の人の孤立感や興奮性を減らすようです。少数例ですが、明るい光が認知症の人の攻撃性、興奮や行動障害を軽くするともいわれています。

以上のケアは認知症の人に広く行われています。しかし、治療法の標準化は難しく、認知症の人の背景が一定せず、効果の評価尺度が複雑であるため、エビデンスに基づいた治療の有効性を証明することが困難です。しかし近年、評価法が改善され、定量的なアプローチも可能になったため、ケアに対する評価が高まり、ケアの社会への貢献度の証明が進んでいます。

2020年初めより、新型コロナウイルス感染症が全世界に拡大し、感染予防を目的として人と人との接触を自粛するとか規制することが世界中で行われています。その結果、認知症の人との交流が著しく減って、デイケアやデイサービスの利用も減少しています。歌やダンスによる刺激を介したケアを避ける人も多くなりました。デイサービスそのものの活動も制限が多くなり、介護士にとって困難な問題が課せられています。

ウィズコロナの時代における刺激を介するケアのあり方が再検討されています。今のところ、オンラインによるケアやITを用いたケアの導入なども図られています。

しかし、認知症の人との絆をどのように保つかなど、ソフト面での配慮も必要になるようです。今後、さらに叡智をしぼって、取り組むべき課題と思われます。

※本記事は、2021年4月刊行の書籍『認知症の人が見る景色 正しい理解と寄り添う介護のために』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。