それでは、具体的に発展している主な企業の誇れる企業理念の事例を見てみよう。

三菱グループの企業理念

三菱の三綱領は次のとおり。

所期奉公(しょきほうこう)(期するところは社会への貢献)

処事光明(しょじこうめい)(フェアプレイに徹する)

立業貿易(りつぎょうぼうえき)(グローバルな視野に立って)

日本最大の企業グループである三菱とて、最初から高邁な企業理念があったわけではない。当初は、三菱の事業は岩崎家の事業であり、全て意思決定は社長が行い、会社の利益・損失は全て社長一人に帰するとまで定めていた。

その後、三綱領の基本的な精神は歴代社長により代々説かれていたものの、三綱領という形で昇華し、まとめられたのは昭和9年のことである。それは第4代社長岩崎小彌太になって初めて制定化され、成文化されたのである。

三綱領は、事業経営は私利の追求を第一義とするのではなく、常に国家的事業観に立つべきであること、また不当な利得を得たり、投機的な利益追求に走ってはならないこと、何事であれフェアプレイに徹すること、自由な創意に基づく公正な競争が市場経済の大原則であるが、法を守ることはもちろん、国民感情や国際社会の慣習にも当然配慮すべきであるとした。そしてグローバルな視野を持つこと、かつ信義を重んじることなどとした。

三菱グループ各社は、この三綱領を心の原点としてその普遍性、永遠性を認識し、企業活動の道標であることを確認している。

1.三菱商事の企業理念

ミッション:所期奉公

(事業を通じ、物心共に豊かな社会の実現に努力すると同時に、かけがえのない地球環境の維持にも貢献する)

ビジョン:立業貿易

(全世界的、宇宙的視野に立脚した事業展開を図る)

バリュー:処事光明

(公明正大で品格のある行動を旨とし、活動の公開性、透明性を堅持する)

三菱商事は三綱領をビジネスを展開する上で、また地球環境や社会への責任を果たす上での拠り所としている。たとえば、新たな地域でビジネスを行う際には、常に地域社会やそこで暮らす人々とコミュニケーションを取りながら、環境面の考慮、雇用の創出、生活環境の向上など、地域社会の発展に貢献することを念頭に置いた取り組みを、資源開発・調達といった上流から、販売・サービスなどの下流まで、バリューチェーン全体にわたって実施している。そして三菱商事を辞めて新たに起業した人にもその精神は受け継がれ、その会社のバックボーンになっているというから普遍性があるのだろう。

(注)バリューチェーン(Value Chain)

事業活動を機能ごとに分類し、どの部分(機能)で付加価値を生み出しているか、競合他社と比較してどの部分に強み、弱みがあるかを分析し、事業戦略の有効性や改善の方向を探ること。一つの製品が顧客のもとに届くまでには、様々な業務活動が関係する。