このマウスはアメリカのジャクソン研究所で開発されたもので、肥満・過食・高インスリン血症など顕著な糖尿病症状を発症します。これらの形質はマウスの第4染色体に位置する単一劣性遺伝子の支配を受けて発症します。この遺伝子は、diabetesと命名され、遺伝子記号Leprdbで表します。

ホモ個体(+Leprdb/+Leprdb)では血漿インスリン値の上昇が生後10~14日齢頃より始まり、生後4~5週齢頃より肥満になり始めます。体重の増加に伴い血糖値は上昇し、生後6週齢頃より尿蛋白陽性を呈するようになります。重症の個体はインスリンを投与しても血糖値のコントロールができません。ランゲルハンス島B細胞のインスリンの分泌が低下しています。

db/dbマウスはレプチン(leptin)の受容体に異常を持ちます。レプチンは多量の脂肪を持つ脂肪細胞によって合成され、肥満の抑制や体重増加の制御を行う分子量16,000のペプチドホルモンです。レプチンは、脳にある視床下部というところに多数発現しているレプチン受容体を介して、食欲を抑える飽食シグナルを伝達し、交感神経活動亢進によるエネルギー消費増大をもたらします。

そのため、レプチンリセプターに異常を持つdb/dbマウスは非常に食欲過剰で肥満になり、2型糖尿病を発症するわけです。ヒトでもレプチンリセプターに異常を持つヒトは、ほぼ常に食べ続けて7歳の時点で体重45kgを超えることがあります。

藤原君はMAFがミトコンドリアを活性化すれば、糖や脂肪の分解が促進され、その結果、血糖値や内臓脂肪が減少するのではないかと予想したわけです。

中田教授の助言があったかもしれませんが、素晴らしいインスピレーションです。db/dbマウスはかなり値段が高いので、テトラヒメナを用いるときとは比較にならないほど費用がかかりました。db/dbマウスの一匹の値段は1万円もしたのです。マウスの餌もいい値段でした。db/dbマウスを24匹ほど使う予定でしたので、テトラヒメナの培養にかかる費用(年間10万円くらい)とは雲泥の差です。

しかし、幸いなことに、2003年から3年間、筑波大学の学内プロジェクト助成研究A「ウーロン茶ポリフェノールによるミトコンドリア膜電位上昇と精子鞭毛運動活性化の分子機構の研究とその応用開発」が採択され、MAFに関する研究費として3年間で660万円を得ることができました。

ちょうどそのころ、MAFがウーロン茶よりも紅茶に多いことがわかりました。MAFプロジェクトをサポートしてくれた、筑波大学の技術移転マネージャーの林さんの尽力で、日東紅茶を販売している三井農林株式会社を訪問し、MAFを紹介するチャンスを得ることができました。私は三井農林の営業、研究、開発の担当者の前で、紅茶のMAFの生理効果に関してプレゼンテーションをさせていただきました。

そこでお会いしたのは、原征彦氏です。原氏は長年茶カテキンの研究開発に携わっておられ、まさに茶カテキン分野のリーダーでした。原氏は私たちが発見したMAFに大きな関心を示してくださいました。そして、うれしいことに、2005年から4年間、三井農林株式会社からMAFの研究と応用に関する共同研究費をいただけるようになりました。原氏からは、その後、現在に至るまで、MAFの研究開発で多大な尽力と援助をいただいております。

※本記事は、2021年4月刊行の書籍『誰も知らない紅茶の秘密』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。