そんな具合で、正月を迎えた。

さすがに初詣には連れて行けない。途中で逃げ出したら何処に行くか分からない、なにしろ我が家に帰れない猫である。

従って元旦は戸締りをして家に閉じ込めて出かけた。

こんな事があった。

近くの桜井神社に出かけるので、我が家では何時もの通りセキュリティーをセットして出かけた。

普段の老夫婦二人暮らしの家には番犬もいない、また飼うと世話も大変である。だからもっぱら警備会社に依頼しているのである。

従って猫が家にいるのは私の脳にインプットされていない、いつもの通り電波を送り警備を依頼した。

ちょび子は飼い主不在の家の中を、悠々と歩き回って遊んだのであろう。

神社の境内にいる私の携帯に、警備会社から緊急電話が掛かった。

「どうしたのですか?」一瞬緊張して聴いた。

「警報が鳴りました! 発報しました。すぐパトロール班が現場に向かっております」

「えっ? あっ! そうだ」

夏場はよく大きな蜘蛛が感知器の上を這ったら発報していた。従って猫が廊下でも歩いていたら、当然感知される筈である。

「すみません! 猫が家にいてうろついているのでしょう、それで感知器が反応したのでしょう、間違いありません」

と、慌てて応答した。

「あぁ、そうですか、では異常なかったらパトロール班に戻るよう指示します」と。

到着した日だったか、二人がいろいろ片付け事をしている時、ふと気がつき周りを見たが何処にもいない、外には出て行けないようになっている筈。

“さあ大変だ!”

家内中を探し回った。仕方がないので私も一緒に探してやった。

「あっいたよ!」

隅に重ねてあったフワフワの布団の中にもぐり込み、丸くなって寝ているのである。やれやれとひと安心。

きっと飼い主が相手にしてくれないので、ふて腐れて寝ていたのか、疲れてしまったのだろうか。

時間が経つにつれ、段々慣れて来たらしい。

あれ!と思ったら、縁側のカーテンレールの上を歩いている。ちょび子はまだ子供の部類らしい。少しもじっとしていない。

最後に私の部屋にまで入って来て、普段は構わない埃だらけの机の下や、テレビの裏を歩き廻っている。

出てきたらその足には綿(わた)(ぼこり)をたくさんつけて……。

「おい、おい、その足で机に上がらないでくれよ!」思わずつぶやいた。

ようやく、寒い正月も終わり無事に帰京したとの報せ。

「やっぱり我が家がいちばんだ」

きっと、ちょび子はつぶやいて跳びまわっているだろう。

平成二十二年一月末

※本記事は、2021年3月刊行の書籍『孫の足音』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。