そう言われた。私もそうだが、きっと、この時の新隊員全員が深く考えることなく宣誓していたと思う。

「自分が自衛官である間に、日本が戦争状態に陥ることなどあろうはずがない……」

そう信じていたため、深く考えることもなく宣誓できたのだ。

──だが日本は、この時既に戦争状態に陥っていた。北朝鮮の軍部工作員による日本国民の拉致が常態的に繰り返されていたからだ。相手はチンピラやコソ泥ではなく、他国の軍隊なのだ。

そして、他国軍による自国民拉致は、犯罪とか人権侵害とかいう枠を遥かに超えた、紛れもない侵略である。かねてより疑いはあったが、昭和62(1987)年11月に大韓航空機を爆破した北朝鮮の女性工作員、金賢姫の証言により、

「多くの日本人が拉致され、北朝鮮で工作員に対する日本語の指導員等にされている」

という事実が明らかになってもいたのだ(※横田めぐみさんら17名の「政府認定拉致被害者」の他に、北朝鮮による拉致の可能性を排除できない「特定失踪者」の人数は800名超とされている)。

入隊当時の私が、全く気にも留めていなかった"北朝鮮の軍部工作員による多くの日本国民の拉致……"服務の宣誓をした自衛官である以上、それが断じて避けては通れない厳しい現実であることを、やがて私は思い知らされる──

※本記事は、2021年3月刊行の書籍『平成の自衛官を終えて ―任務、未だ完了せず―』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。