「結局のところ、世の中や他人がどうあれ、他人は他人、自分は自分で、自分に誇りを持って、自分を裏切ることなく自分に正直に、とにかく後悔することなく生きるしかないんだろうな。そういう生き方をした人が、親父の言う人生の勝利者だと思うんだよ。

俺は全くの凡人だから、そういう生き方をして、富や出世や名声が得られなくとも納得できるかどうか、自信がないけどさ。というか、そういう生き方をすれば、富や出世や名声を得られないことを覚悟しなくちゃあならないのかもしれないな。

できるかどうか自信はないけど、富や出世や名声だけに執着しない生き方をしたいと思うんだよ。世のため、人のために役立つような生き方ができる人は立派だけど、俺には到底できそうにないよ。せめて、人間としての誇りを持って、悔いなく生きていこうと思う」

「茂津、お前の言うように人間としての誇りを持つ生き方をすれば、そのことが、世のため人のため人に役立つようになることかもわからんで。間接的にしてもや。そういう生き方をしたら、他人に対する思いやりを持てるし、薄汚いこともできひんはずやんか」

「そうだな、別当の言うとおりかもしれないな。あまり堅苦しく考えなくても、自分に誇りを持って真っ当に正直に生きていけば、それだけで良いのかもしれない。そのことが間接的にせよ、些細なことにせよ、世の中の役に立つことに繋がっていくのかもしれないな。そんなことが世の中にさざ波のように拡がっていくことに期待したいよ。

お前たち2人には、100人か1000人のうちの一人のような人でいてほしいよ。俺もそういう人を目指して生きていきたいと思うけどさ」

と茂津が、いつになく神妙な顔つきで2人を見つめた。

「ところでさあ、3人からいろんな話が出たけど、昼休みの食後にするような話じゃねえぞ。そうだろ。何だか全く消化に悪いよ。こんなクソ真面目な話をするときは、学校以外の場所でしようぜ。学校では馬鹿話や教師の悪口だけでたくさんだぜ」

と茂津が言うと、2人は微笑みを見せた。

勉は、帰りのバスの中で、茂津の横顔を見ながら、いつも硬い表情の宗の顔も同時に思い浮かべ、2人がいてくれて今日も良い一日だったと思った。

やがて、夏休みに入ったが、勉は2人に連絡を取るようなことはしなかった。無論、2人が嫌いというわけではない。勉は、何もないのに、いつもベタベタと付き合うのを好まなかったし、いつも群れをなして行動することが、性に合っていないと思っている。2人からも、勉に連絡はなかった。3人とも同類かと思うと、勉はなんとなく安心感のようなものを感じたのだった。
 

※本記事は、2021年3月刊行の書籍『海が見える』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。