1980年代後半のバブル経済期には、政府が東京の機能分散として「業務核都市」を指定した。みなとみらい21、幕張新都心、さいたま新都心の整備が進んだが、熊谷、土浦、千葉ニュータウンなど外側の対象地域への移転は不十分だった。今後はこれらの地域からさらに周辺にかけての分散がまず現実的だろう。メガバンクや保険、証券の本社は、近くLRTが走る宇都宮とか水戸、高崎、前橋、甲府あたりが良いと思うし、もう少し遠く、仙台、福島、長野、松本、名古屋あたりでも良いと思う。

日本の総人口は2007年から減少しているのに、東京だけは一極集中が続き相変わらず増え続けており、2020年4月には都の人口は1400万人を超えた。また帝国データバンクによると2019年に本社機能を東京圏(東京、千葉、埼玉、神奈川)に他道府県から移した企業は312社で9年連続の「転入超過」となっている。

東京23区の人口は968万人になっており、東京湿原のために5区が全部無人になったとすると262万減ることになるが、この人たちが従来通り都内に通勤するとなると、旧来のエリアでは最早過密を通り超す。多くのオフィスを東京以外に移さなければならなくなり、その意味からも大企業の本社移転が効果的である。同時に大学なども、例えば東大を除く六大学の本部キャンパスを東京から100キロ圏に移すことも提案する。

本社機能を地方に移転させるインセンティブとしては、全国一律の法人税に差をつけるなどいくつかのアイデアはあると思うが、各社とも集中のリスクがだんだんとわかってきた今こそ自発的に行動に移す「とき」ではないだろうか。国会でも「社会機能の全国分散を実現する議連」という首都機能などの分散をめざす議員連盟が立ち上がり、2021年内にも具体策を盛り込んだ提言をとりまとめるそうである。首都機能の移転のような話は、総論賛成だが自分はイヤということからなかなか進展しない。

コロナ禍もひとつのチャンスだが、待ってくれない自然災害から身を守るための東京湿原化と併せて検討してもらいたい。

江東5区の湿原化は、指定地域を定め、強制的にそれを行うプロジェクトとしてそれを遂行することを提案している。企業の場合も、業務継続のリスクが「そうしなければならない差し迫った理由」と認識されれば自発的な移転が期待できるかも知れないが、そうでなければ半ば強制的に行う必要があるだろう。

繰り返すが、大地震はいつ来るかわからないが必ず来る。突然来ても、移転計画がしっかりできていれば発生後の復興計画も立てやすいはずだ。計画作成だけでも急いでほしいものだ。

※本記事は、2021年2月刊行の書籍『自然災害と大移住』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。