平伏している光秀に向かって、

「美濃の明智殿の身内の者と伺ったが遠路の訪問大儀であった、 面(おもて)を上げられよ」

「土岐源氏の流れを汲む、明智十兵衛光秀と申します、本日は御屋形様に南蛮渡来の鉄砲という武器をお見せするために参りました、これから天下に立とうとするには、この鉄砲が必ずお役に立つことと思われます。現に尾張の織田家などはこの鉄砲を大量に取り入れておられます」

「どのような物か、見せてみよ」

光秀は布袋を開いて種子島を取り出し、政虎の前に差し出した。政虎はしばし眺めていたが、

「どのようにして使うのか、試してみよ」

光秀は、種子島に硝薬を慎重に詰め込み、玉込めはせず、

「御庭をお借りしてもよろしいでしょうか」

政虎は肯いた。光秀は立ち上がり客間の障子を開けて縁側に立った。政虎も立ち上がり光秀のそばに来た。

「轟音が致しますので、しばし耳を御塞ぎください、本来、玉込めを致しますと、一町先の的を確実に射貫くことが出来ます」

そう言って光秀は火縄に火をつけた。「ドーン」轟音がして思わず政虎も後ずさりした。

「して、その物は、いかほどの値が致すのか」

「はい、南蛮物で一丁百両ほどかと、紀州物だと、その半分位で手に入るかと思われます」

「そうか、吾が国は金には困ってはおらぬが、儂はそのような卑怯な武器を持っての戦いを好まない。人はなるべく殺さずに戦いを収めようと思っているので、当国では採用は控えたい。悪く思わんでくれ」

「承知仕りました。この様な武器がある事だけ、御屋形様にご承知いただければそれで充分です。これからも正義の戦いをお続けください」

光秀は、政虎の丁寧な応対に感謝し、春日山を辞した。

※本記事は、2021年3月刊行の書籍『明智光秀の逆襲』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。