煕子の内緒の話

唐突な出現ですが、光秀様の妻の煕子です。もう少し後から出てこようと思っていたけど、我慢できなくなってしまいました。彦ちゃんの話は、難しくて堅くつまらないことばかりだと思います。そのため、いつも彦ちゃんの側で見守っていた私、煕子の口から、皆様が多分知らないことや見栄っ張りの彦ちゃんが隠しておきたいことなどをお話ししちゃいます。彦ちゃんの話共々、最後までお付き合いくださいませ。

今から彦ちゃんに内緒で、煕子が彦ちゃんをどう思っていたかを話すことにします。ちなみに、光秀様のことは、二人だけの時はいつも「彦ちゃん」と呼んでいました。だから、ここでも彦ちゃんで通すことにします。

煕子も小さい頃から、少し我が儘で優しく泣き虫の彦ちゃんが大好きでした。煕子の言うことは、何でも聞いてくれるし。うんちを漏らした頃には、煕子は、彦ちゃんに夢中でした。川で溺れそうになった時、泳げないのに私を助けようとして気絶した彦ちゃんの姿を見て、絶対、絶対結婚しようと思っていました。

疱瘡になり結婚を断ったのは、煕子の作戦です。彦ちゃんなら、私がどんな姿になろうとも結婚してくれると思っていました。賭けに出ました。勝ったわ! ウフフ。

結婚前のお話で「煕子の夢は」と聞かれた時、「彦ちゃんとの結婚と一国一城の殿様の奥方になること」と答えましたよね。煕子の言うことを聞いていれば、一国一城の大名になれますよ、きっと。

煕子の作った料理をいつもおいしいと思っていてくれていたなんて、嬉しいわ。もう、いつ死んでも悔いはないです。彦ちゃんは、好き嫌いはなかったのですが、唯一、西瓜は食べませんでしたね。嫌いではなかったようです。義母上様にその理由を聞いてみると「内緒ですよ」と教えてくれました。小さい頃、夜に西瓜を食べ、次の日の朝におねしょをしたことがあったそうです。それがトラウマになり、西瓜は食べなくなったそうです。見栄っ張りの彦ちゃんらしいエピソードですね。内緒ですよ。

毎晩煕子から求めたですって? 嘘つかないでよ、そんなはしたないことしないわよ。あなたからでしょ。彦ちゃんは、こんな時でも見栄っ張りなんだから。

「いけない、変なこと言うから、また欲しくなっちゃったわ。彦ちゃん、二人だけになれる所に行きましょ。ねーねー」

彦ちゃんは、生まれた時から、疑い深くもなく狡猾なんかではありません。優しく少し心が弱いだけです。彦ちゃんの心は、煕子が守ってあげると決めていました。

後、彦ちゃんが通っていたお寺といじめっこの田島真之介、煕子がキッチリと落とし前をつけてあげたからね。かなり後のことだけど、お寺にはたまに夜になると化けて出て、誰も寄りつかなくしてあげたわ。田島家も没落したわ。今じゃ田島家のことなど誰も知らないでしょ。

※本記事は、2021年5月刊行の書籍『弑逆者からのラブレター 「本能寺の変」異聞:明智光秀と煕子』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。