序 情報化・電動化・知能化の発展段階

二十一世紀の先端技術開発のメインストリームを単純に三つのフェーズに分ければ、二〇二〇年までの情報化フェーズ、二〇五〇年までの電動化フェーズ、そして二〇九五年頃までの知能化フェーズと想定している。

二十年、三十年、四十五年とそれぞれの開発フェーズが50%ずつ長期化するだろうとの予想の根拠は、二十世紀に起きた機械を基盤とした電動化の進捗と異なり、当面は半導体が構成するセンシングやアクチュエーターの要素技術に係わる細かな開発競争となるためである。

即ち、半導体の小型化・省電力化に伴い、二〇二〇年以降の電動化や知能化においては、その要素技術ごとの実験結果が分散化し、その観測と分析が著しく困難となるからだ。

結果的に「ヒトという生命体とのインターフェース」が重要な技術評価基準(Criteria)となる今後は、個体または個人によって、あるいは研究者によって実験結果に対する判断が千差万別となるだろう。

これまでの技術フェーズの流れを考えると、今世紀前半は情報化から電動化へ、そして後半はいよいよ本格的な知能化へと、段階的にナノ技術のレベルを上げながら進むものと想定できる。

二十世紀に機械化から電動化へと移ってきた「機械による電動化社会」を基盤として、今世紀前半には「情報による電動化社会」として本格的なナノ物理化学研究の世界に入るだろう。

日本には現時点でその物理化学の知見があり、研究開発では得意分野だが、やはりこれまでの情報化フェーズと同じように、そういった先端研究に係わるビジネスモデル化やマネタイゼーションが不得意である。

それは欧米の機械化文明の視点では大量生産・大量消費を基本としてビジネス化されてきたことに日本が遅れているという意味でしかない。

今後のナノ世界での物理化学を追究してゆく世界では、その大量生産・大量消費文明の正反対を行く必要があるからだ。

ある意味、日本は情報通信化に一周回以上遅れたことにより、「機械による電動化社会」の束縛を受けずに「情報による電動化社会」の構築に向けて一から挑戦できると言ってもよいだろう。