数日後の二次の面接は、これも驚いたが、髪を紫色に染めた濃いお化粧の、派手なセーターと黒のスパッツ姿の女性役員という人が対応した。姿を見ただけで、かしこまる気は失せてしまった。映画で見たやくざの姉御のようで、もうこの会社に合格できなくてもいいという開き直った気分だったかもしれない。聞かれたことに躊躇いも物怖じもなく、率直に応じた。

何がこの結果に結びついたのかわからないが、間もなく採用の通知が届いた。

嬉しいはずの連絡だったが、こんな会社に行きたくないという気持ちが半分だった。

どうしようかと考えてみたが、他に代わりがあるわけではないので、怖いもの見たさで入社してみることに決めた。

『思い違いかもしれないし……』

などと、自分を騙しだまし、初出社の日を迎えた。

早めに家を出て、電車を乗り継ぎ、会社に着いた。狭い敷地の上に建てられた六階建ての鉛筆のような細長いビルを見上げて、ため息が出た。

指示された通り、四階の部屋に上がって、その場にいた女性社員に入社の挨拶をした。

四階は女性ばかりの職場で、衣装貸出の準備をする部屋だった。全社員が集まって朝礼があるということで、他の人たちと一緒に六階へ上がった。

部屋に入ってぎょっとした。数十名の社員が半円状にずらりと並んで立っていたのだ。経営者らしいスポーツ刈りでサングラスをかけた人相の悪い六十歳くらいの男性を中心に、紫色のヘアの女性や、リーゼントのお兄さんたちが厳しい顔をして立っていたのだ。

衣装担当の女性たちは、おそらくお店で一番の働き手達なのだろうが、一般人という雰囲気で小さくなって固まっていた。

今回同時に採用になった女性五人が皆に紹介された後、営業報告が始まった。成績の悪い営業社員が大勢の前で、大声で糾弾され、罵倒され、涙を流していた。

三日続けて出社してみてわかったことは、この建物は一階から三階までが貸衣装の展示と試着、接客の営業スペースで、四階が衣装の貸出準備の作業スペース。そこは接客、試着、直し作業を全てする女性たちの仕事場だ。五階、六階は重役とリーゼントの営業スタッフの居場所で、顧客と女子社員の動きを監視するため、各フロアを映すモニターが五階の壁一面に設置されていた。

四階の女性を遊ばせないように上階から注視していて、一階に顧客が来たことがわかると、四階に名指しで指示の電話がかかってきた。指名された女性は貸出衣装の準備作業の手を休めて、そそくさと接客に降りて行った。女性スタッフが新規の客の試着を終えると、リーゼントの男性がすかさず顧客の前に現れて、タッチ交代で予約の交渉に入る。

花嫁衣装を見に来ただけの人にも、仮予約金を出させて、衣装のレンタルの約束をして帰らせるのが彼らの仕事である。能率的と言えば、能率的だが、怖さのある職場だった。

詐欺行為だと思えたのは、一着しかない衣装に対して、同じ大安の日に、何人もの花嫁が重なって予約をしていたことだった。

結婚式の予約は、毎日平均して入るものではなく、大安の日に何件も重なるものだ。

その日に、ミスで起こるダブルブック、トリプルブックではない。知っていながら受けたでたらめな多重予約だ。良い衣装は、どの花嫁の目にも留まる。一着しかないからといって、予約済みだと断れば、予約がとれずに帰られてしまうので、正式予約に結び付けられない。だから同じ日に一つの衣装に何人の予約が入っていても、予約OKを出せと女性スタッフは上から言われていた。その気にさせて仮予約金を出させて帰し、後日色々な理由をつけて花嫁を一人一人呼び出し、予約衣装を変更させた。

予約金を千円でも払った人は言われるままに素直に変更する人もいる。しかし泣く人や、訴訟沙汰にまでなる人もいるようだった。こんな悪質な商売はしたくないと思っていた頃、ハワイ挙式のスタッフは別のオフィスに移ることになった。

同じ経営者の運営下なので、同じようにあくどいことをするのかも知れないとは思ったが、とりあえず、あの『やくざの一家』から離れられるので、そちらへ移ることを歓迎した。

新しいオフィスには新入社員五名の他に一人の中年の男性がいた。彼は旅行社の人で、ハワイ挙式の取り扱いとともに発生するハワイ旅行の案内と受注をするため出向してきていたのだ。その人がその場の責任者としてスタートしたので、少しほっとした。

後日、彼と話をしていて、この会社に対して私と同じ印象を持っていることを知った。

「三か月後に、ここはやめて、自分の会社に戻ることにした」

と彼は自分の方針を語った。

「私もこの職場は長く続きそうにありません」

と自分の気持ちを言うと、

「三か月後に自分の旅行会社でも、海外挙式のセクションを立ち上げるつもりだ。同じ仕事だから、来る気があるなら、同じ条件で採用してもいいよ」

と言ってくれた。私は何も考えず、本当に何も考えず、渡りに船とばかりに、その話に飛びついた。どんな会社なのか全く知らなかったが、今の会社よりはましだと判断した。

一緒に入社した二十六歳のもう一人の女性も同じように三か月後に退職することを決め、二人で同じ旅行社に入ることになった。

※本記事は、2021年2月刊行の書籍『乙女椿の咲くころ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。