そして洪水の場合はその予想される被害についてある程度イメージすることができるが、大地震では難しい。地震のタイプ、すなわち同じ震度でも縦揺れか横揺れか、長周期かどうか、余震の頻度や規模などにより建物の損壊の程度は大きく異なるだろうし、発生の時間帯などで人的被害の程度も大きく異なるからだ。さらに直接的な被害の予想も難しいが、間接的なものとなるとなおさらだ。

東日本大震災で福島の原発が被災することで日本中の全原発が停止した。津波での原発の被害を予想できた人はいただろうが、その人でさえ日本中の原発が停止することまでは想像できなかったのではないだろうか。

これは科学的な因果関係というよりも、風評などのような心理的な、さらには政治的な影響ともいえるが、そのようなものも含めて一極集中が進んだ東京が被災したときに、日本だけでなく世界に及ぼす間接的な影響は図り知れない。

金融取引やサプライチェーンが複雑化した今、もしも東京に集中している大企業の本社が一斉に機能不全に陥ったときに、影響が日本中、あるいは海外に及ぶことは風評を含めて大いにありうる。とにかくいろいろなものが東京に集まり過ぎているのだ。地震を含む自然災害に対する東京のリスクの最たるものは集中であると言っても良い。

地震への対策として企業は、建物の耐震化、停電に備えた自家発電用燃料や食料・水などの備蓄を行い、データ類の遠隔地でのバックアップや保管などはかなり行われていると思う。

また最近では、災害時の事業継続計画(BCP)を策定している企業も多い。しかし建物の損壊がなくても、あるいは手順が決められていても、業務の判断をしたり執行するための人がそこにいるか、すぐに集まれるのか、そのためのパソコンや通信が生きているかなどにより業務が停止するリスクはある。

さらに電気などインフラの復興が遅れ自家発電用の燃料が尽き、長期停電が続いたときなどはどうなるのだろうか。あるいは交通や通信の遮断が長期にわたったときはどうなるのだろうか。1社だけがそうなったのであれば、業界の他社が代替策を講じたりすることができるが、東京に多くが集まっていると、業界全部が機能しなくなることが考えられる。

これが東京に集まり過ぎていることのリスクである。

※本記事は、2021年2月刊行の書籍『自然災害と大移住』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。