1-3.MAFの実体

ここでは、抽出したMAFの化学的な性状、MAFの分子量とMAFの部分構造について、藤原君の論文の内容をもとに紹介いたします(『ウーロン茶と紅茶の高分子量ポリフェノール:その精製と性質、そしてミトコンドリアの膜電位上昇における役割』)。

私たちはMAFの抽出分離を試み、図5の分画9から11にMAFが存在することを見つけました。MAFとは一体どんな物質なのでしょうか?

小澤先生はトヨパールHW-40Fの溶出パターン(図5の上図)から、その正体は分子量の大きなポリフェノール(高分子ポリフェノール)だろうと目星をつけました。それを証明するため、小澤先生は、まずMAFの分子量を調べ、次にMAFの分子構造を明らかにしました。

高分子ポリフェノールの分子量の測定には、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)がよく使われます。「MAFの精製とその性状」のなかでも触れましたが、SECで使われる充塡剤には小さな穴(細孔)がたくさん開いています。

分子量の大きなものは細孔に入れないので、速やかに流れ出てしまいます。一方、分子量の小さいものは細孔に入ってしまうため、細孔に入ったり出たりしながら、ゆっくりと流れ出ます。

したがって、分子量の大きな成分が最初に溶出し、より小さい分子量の成分は後から溶出するわけです。すべての細孔に入った低分子成分は、カラムから最後に溶出します。

小澤先生はSEC充塡剤としてTSKgelα-3000を用いました。この充塡剤には平均細孔径15nmの穴が開いています。SECの結果、MAFの分子量(数平均分子量)は9,000から18,000であることがわかりました。

緑茶にはエピガロカテキンガレート(EGCG)が多く含まれています。EGCGは強い抗酸化作用を示し、多くのサプリメントに用いられています。

ウーロン茶や紅茶のような発酵茶では、茶葉が発酵する際に、茶葉のポリフェノールオキシダーゼによってポリフェノールの重合体が形成されます。ウーロン茶や紅茶では2個のEGCGが酸化重合したテアフラビン(Theaflavin)や、もっと多くのEGCGなどが酸化重合した高分子のテアルビジンが含まれています。

テアフラビンは赤い色をした抗酸化作用を持つポリフェノールです。健康への効能について多くの報告があり、試験管中でインフルエンザウイルスの増殖を抑えることが知られています。そのためサプリメントとしてヒトへの利用について、多くの企業が実用化を目指してきました。しかし、ヒトへの明確な効果は明らかになっていません。

テアルビジン(Thearubigin)も抗酸化作用を持つ高分子ポリフェノールです。ルビーのような赤色をしているので、それが名前の由来となっています。

テアルビジンは紅茶に含まれる高分子ポリフェノールの総称であり、多くの高分子ポリフェノールが含まれています。テアルビジンに含まれる高分子ポリフェノールの分離精製は、多くの研究者によって試みられてきましたが、非常に難しく、成功した人はいませんでした。