「わかりました」

しばらく考えて大将が言った。

「それならもうこれしかないでしょ」

大将、決めつけちゃっていいの? これしかないって。

大将が奥から何かを取り出してきた。あっ、まさかの! そうそう、俺の大好物の鰻だ!

「もうすぐ土用の丑の日ですからね。浜松っ子はやっぱり浜名湖の鰻を食べなくちゃ」

昔からここ浜松といえばやはり鰻だろう。

「うちみたいな飲食店も夏場は食欲が落ちたり、旅行に出掛けちゃったりで売り上げが落ちるんですよ。でもそれを救ってくれるのが浜名湖名物の鰻。市外から食べに来てくれたり、この時期は持ち帰りのうな重の注文があったりするんですよ。ランチでも丑の日には豪華にうな重を食べてくれるお客さんが多いんです」

そうか~。夏の売り上げに頭を抱えてるのは、俺だけじゃないんだな~。大将もいろいろと工夫しているんだ。

「じゃあ、その鰻もらうよ」

「かば焼きですか? 白焼きですか?」

「うーん、迷うね」

ご飯と食べるのなら断然甘辛いタレが絡んだかば焼きだが、酒の肴で食べるのならわさび醤油を少しつけた白焼き。

このシチュエーションなら白焼きか? でもあのパンチのきいたタレの味も捨てがたいんだよな~。

「俊平さん、どちらもお好きなようですね。それならハーフ&ハーフにしましょうか?」

「それってかば焼きと白焼きを半分ずつ焼いてくれるってこと?」

「はい。いかがですか?」

大将が神様に見えた。すごい! なんて俺の気持ちをわかってくれる人なんだ。

こんな店なら毎日でも通いたくなっちゃうよ。

※本記事は、2021年3月刊行の書籍『微笑み酒場・花里』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。