国の計画

総理大臣、菊野桃子は、種男五十八番の母親である。種男五十八番は、二十一歳にして既に二百九十人の娘を持つ。菊野桃子も種男五十八番も彫りの深い顔立ちで、色は浅黒く背が高い。

菊野が総理大臣になってから、種男たちの待遇は以前の何百倍も良くなった。菊野以前の内閣では、種男たちに女を選ぶ権利は与えられていなかったのだ。まるで種男たちは女たちの奴隷のような扱いだったのだ。この種男たちに新しく与えられた権利によって、少しずつだがシステムに歪みが生じてきていることは、菊野も感じてはいた。

百四十七人の種男たちの中に抽選で当たった女に貸し出しされることを拒否する者が最近増え始めているのも事実であった。

世界中が日本の二百年前から始めた試みをこぞって真似し始めて百年。二百五十年ほど前から、急に男の子の出生率が世界中で減少し出したこともあるが、男の減少によって明らかになったのは、以前より世の中が平和になったことだった。どこへ行っても穏やかな空気が流れている。戦争をしている国などどこにもない。選ばれた人々しか残らない、そんな世界になってしまった。何かおかしいんじゃないか、そう思っている女たちはいることはいたのだが。

出会い

種男百五番が、また貸し出し中というテロップがテレビで流れたころ、大西由香はもうすぐ生まれる種男百四十八番とその母、藤田美紀を取材していた。藤田美紀が分娩室に入っていく様子を各局が一斉に放送している。これは日本にとっては一大事なのだ。男が生まれるのだから。この種男百四十八番の父親が誰なのかが話題の焦点である。

大西由香にとっては男が生まれるということ事態がまさかの出来事で、それを取材するなんて夢のまた夢であった。男とは、種以外何物でもないという思考で生きてきた大西由香にとっては、この種男を出産することになった藤田美紀がどのような人物なのかに非常に興味があった。