千年の夢

あふれる思い

岩山で過ごした長い孤独な歳月がよみがえってきました。その思いが若者の指のかき鳴らすままにあふれ出したのです。

春、雪解けの水の流れの音を聞きつけると胸が高鳴ります。やがて、花が咲き乱れ、蝶が舞い、鳥が飛び、野ウサギが元気よく跳ね回り、野原は美しい天上の花園となります。穴を出たり入ったりするイタチ、けたたましく鳴きあうキツネの親子。

山は夏までせわしく動き回る生き物たちでいっぱいです。やがて、冷たい風が吹き始め、花が次々に枯れていき、雪が降り始めます。冬空にこうこうと光る冷たい月、夜渡りする鳥たちの鋭い鳴き声、ただただ吹き荒ぶ冬の嵐。

ふらふらしてやってきたチャップをわたしは思い出します。力強く遠くの谷まで滑空する若者のチャップ。父親になっていっそう自信に満ち、喜びにあふれたチャップ。そして、チャップの死。

子どもたちを見つけた時のわたしの驚き、そして喜び。岩山でひとりでいる時、何度も見た虹やさまざまな種類の雲、雷鳴といなびかり。それら何百年もわたしが見てきた光景や音や色彩が次々とあふれ出し、とまりませんでした。

人々は、わたしの紡ぎだす音色に驚き、ためいきをつき、ただただ、ぼうぜんとしました。そして、わけもなく、涙を流しました。わたしの語る音色は確かに彼らのまったく知らない場所からやってくる旋律と響きだったにちがいありません。

彼らはわたしの凍えるような孤独と、それにも増して美しい天上の光景、わたしの深い喜びを感じとり、嵐にあったかのように心も感情も揺さぶられました。