頻度からいって一番多いのはアルツハイマー病であり、続いて血管性認知症やレビー小体型認知症です。他の認知症は症状、経過、合併症や臨床検査所見に特徴があるので、それを見落とさないことが大切です。さらに、病名だけではなく、認知症の人や家族が抱えている問題点やその程度を明らかにすることも必要です。

介護保険申請における主治医意見書の提出を求められた際には、病名よりも介護上の問題点やその程度を判断することが重要です。今後もさらに多角的な認知症の診断が必要になるでしょう。

認知症疾患の予防と治療

「認知症が治る」と言ったら、言った方が「どこかおかしいのではないの」と不審な眼で見られるのが普通だった時代もありました。けれども、今では「認知症疾患の治療ガイドライン」「認知症疾患 診療ガイドライン」などの本も刊行されてきて、書店で買える状況になっています。

種々の認知症の症状を良くする治療薬、ケアや予防の目処がかなり立ってきていますが、「認知症が治った」といえるのは残念ながら限られた認知症疾患だけです。また、認知症の予防について徐々に証拠が固まってきました。

まず認知症の予防は可能かについて紹介し、次に「治るといえる認知症」について、その診断法と治療法について述べます。

認知症の予防は可能か

アルツハイマー病はじめ、認知症は大部分が脳の老化を基礎として生じるため、歳のとり方を変えられるかが予防の鍵とな
ります。

[図表]脳の若さを保つには

これら認知症と関係した因子は認知症の人を調査することにより明らかにされました。その中には「仕方がない」ものと「何とかなる」因子があります。それでは、何とかなる因子を変えると認知症にならずにすむのだろうかという研究が地域住民などを対象にして実施され、令和になって認知症の予防の可能性が発表され始めました。

2015年頃から、欧米や日本の認知症の疫学調査により、認知症の発病が頭打ちになるか、あるいは減少傾向にある現象が見られました。

[図表2]これから開発途上国で認知症の人が増える:Kalaria RN, et al.: Alzheimer’s disease and vascular dementia in developing countries : prevalence, management and risk factors. Lancet Neurol 7: 512-516, 2008 を改変した。途上国(実線)では寿命が延びるとアルツハイマー病が増えるが、先進国(点線)では予防によりそれほど増えない。

そのデータより、これらの国での「何とかなる」因子を介する認知症予防が可能ではないかと想定されました。

しかし、それらの予防法が本当に有効かどうかは、予防法によって認知症が起こりにくくなるかを証明する必要があります。その証明が最近になって出始めたので、以下に簡単に紹介します。今後、予防についての研究が進歩し、大きな進展をみせるものと期待されます。

1) 食事:栄養のバランスがとれた、薄味の食事が勧められます。魚や野菜中心の地中海料理を勧める報告もあります。

2) 運動:適度の運動が勧められます。

3) 活動:個人でする精神的活動のほか、社会活動への参加なども勧められます。

4) 社会情勢:一人で動かしにくいものですが、関心を持って国民として努力することが大切です。

5) 対人関係:周囲の人たちと良い関係を持ち、ストレスをためないことが大切でしょう。

6) 他の病気のコントロール:高血圧、糖尿病、難聴、感染症、脂質異常症、全身性エリテマトーデスなどの膠原病を治療して、血管性認知症などを予防します。

7) 認知症に対する予防薬:まだ成功していませんが、開発中です。
 

※本記事は、2021年4月刊行の書籍『認知症の人が見る景色 正しい理解と寄り添う介護のために』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。