〈晴香さんと一緒?〉

〈関係ないです。今日は仕事で池袋にいる。帰れないから明日の朝早く帰る〉

〈「たー君へ」とか「たー君と今日も一緒にいられる」とか、何もないはずがない。今日は寝ます〉

〈関係ない。今は池袋で、とにかく朝帰るから。俺は寝られないけど、寝ることのほうが大事なら寝てください〉

二月二十五日(金)

薄っすらと夜が明けてきた頃に孝雄が帰ってきた。狭い寝室でベッドが置けないため、壁を背にして置いてある本棚の脇に布団を二組敷いている。私はいつも本棚側の布団で、本棚に寄り添うようにして寝ているのだが、その背中に孝雄が密着してきたので身動きがとれなくなった。とても寝ていられる状態ではなくなり、身体を動かすと、「すみません」と言って自分の布団に戻る。

こんなことが、このところは続いていたので、ゆっくり睡眠をとることができず、慢性的に疲れていた私は、その後ふたたび、うとうとし始めた。だが、トイレに行きたくなって目が覚めると、いつのまにか、また孝雄が私の布団の中央に陣取っていた。そこから抜け出すと、孝雄の体が乗っかっていたようで、右腕が異常にだるい。

その後、トイレから戻ってくると、孝雄はますます本棚のほうに寄っていて、私の寝るスペースがまったくなくなっていた。孝雄の布団でさらさら寝る気のない私は、どうしようかと思案していると、また「すみません」と言って、自分の布団に戻っていった。

疲れがとれないまま起き出し、朝食の支度をして、二人の娘たちを学校に送り出すと、ようやく夫が起きてきた。シャワーを浴びて朝食を食べ、着替え終わって、出勤準備が整ったところで、最寄り駅まで車で送る。途中、隣の助手席から何十回も舌打ちする音が聞こえてくる。

(嫌やなあ……)

これも今に始まったことではなく、前からしょっちゅうあることで、「あー! くそー! 間に合わない!」と怒鳴りながら行くこともしばしば。出勤する時間が毎日一定ではなく、聞けば機嫌を損ねるだろうし、特に言われなければ何時に出かけるのか、まったくわからない。それで放置していたせいもあるのかもしれないが……自分の準備の仕方が悪いだけなのに……。

初めのうちは、そんなふうに怒鳴ったり舌打ちしたりするのが始まると、不快でたまらず、目に涙を溜めながら送っていたものだったが、これも考え方を変えて、家を出てから駅に着くまでの間にした、舌打ちの回数を数えながら行くようにしたら、だいぶ気が紛れるようになった。

※本記事は、2021年4月刊行の書籍『夫 失格』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。