カメラ談義をあとに橋の袂のベンチを過ぎ快適に散歩を続けた。この川の散歩者は多いが、私より若年者を探すのは難しい。若年者は、しっかりとスポーツウエアーを身にまとい私を春風のように追い越していく、そんなジョギングのメンバーだ。

一時間程度の散歩を始めたのは、

「心臓の調子が悪い。狭心症です」

とドクターから指摘を受けた時からのものだ。当初は、ジョギングでもしようかと思ったが、無理は禁物、楽がいいとあきらめた。カメラを持たない散歩者との話は、ほとんどが持病の話である。

「糖尿病は、つらいよ。好きなものが食べられない。毎日、粗末な食べ物ばっかりだ。インスリンをお腹に打っているし、年金生活だからしょうがない。無理も言える立場じゃあないね」

また、ある散歩者は、

「一日に二食で、昼は腹が空かないから食べないことが多い。ゴロゴロ寝てばかりの日は、ろくに食べない日もある。娘が週に一回掃除と洗濯に来るが、うるさいね。趣味を持って何かやればと言うがこの年で趣味といっても、やる気はしない。今は、川歩きの散歩が趣味だね。女房に死なれて十年になるが男は駄目だね。女房より先に逝かないと」

こんな、高齢者の話の輪に入ると、私は、まだ「若い」と勇気付けられる。

散歩も二つ目の橋を渡り、折り返し帰宅コースで神奈川側を歩く。いつもここで時計を見ると、約三十分。この辺りは川幅が広くなり深さも川底が流れにより見えない程度になり、歩き始めの「せせらぎ」を聞く感じと違い「滔々と流れる」大河の趣で短時間に歴史絵巻を耳にする様だ。

コイが散歩者のエサまきに集まり、飛び跳ねている。白、黄色、赤、三色、黒等色々なコイがいる。飛び跳ねる音は何とも激しい「エサ取りバトル」の音である。

一つ目の橋に着くと、誰もいない。珍しいことである。その先を見ると、何十羽というサギが両岸に集まり、あちこち水中を突っつきエサを探している。この光景を見る為に場所替えしたのだろう。今日は、カワセミ、カメ、カモの親子、コイ、サギも見た。良い日の始まりであった。

そんな日も、味噌汁、納豆、卵焼き、ヨーグルトの朝食を食べ、テレビで『時事放談』を見て、昼になれば、しっかりとハム、チーズとパン、どっさりの野菜の昼食をとった。どっさりの野菜は、毎日食べさせられていると言ったほうが適切で、妻に、

「全部、食べなさいよ。身体のためだから。自分のためよ」

と言われて、素直に全部食べる。毎回、野菜だけでお腹が膨れるくらいだ。

その時が来た。

昼食を終え、しばらく本を読み、リビングでテレビを見た。アメリカ映画の手に汗握るクライマックスシーンで私の耳には何も聞こえないほど集中した時だった。

大統領が車に乗り、その脇をガードマンが固める。高層ビルディングの屋上から、大統領を高性能なライフルが狙う。恐い凶悪犯だ。

その時、その場に太陽が当たりミラーが反射し「キラッ」。一瞬ガードマンが……。そんな時だった。