七 分岐点

それからの数年間、子供たちは大けがをすることもなく、大病をすることもなく、順調に育っていった。一方、夫の仕事量はどんどん増えていき、忙しくなっていった。

手伝いのスタッフも雇用したが、もともと完璧主義で、仕上げた作品は全て自分が目を通さなければ納品できない人だった。それだけ仕事の完成度は高く、スポンサーには信頼されていたが、体が悲鳴を上げ始めていた。

睡眠時間も少なく、ほとんど一日仕事場で過ごすようになり、短期間に極度にやせていった。一カ月で十キロもやせたのだ。外見がガリガリになり、ただ事ではないと感じた。

夫は仕事の忙しさを理由に病院へ行かなかった。普段きつい口調で物は言わないようにしていたのだが、その時ばかりは、

「病院へ行ってきて!」

と強く言った。

一番先に癌を疑った。ただそれ以外に心を病んでいるのではないかとも心配していた。眠れない。食欲がない。味がわからない。光がまぶしい。気分が急に滅入ることがあり、他に向って攻撃的になることもあるなど、その他いろいろな症状が見て取れたのだ。

夫はしぶしぶ近所の病院へ出掛けて行った。夫が帰宅して、彼の話を聞いてから、医師からも直接話を聞きたいと思い、その病院へ自分も行って、詳しく話を聞いた。

医師は、「心の病『うつ』でしょう。ストレスが引き起こしたものです」

と、言った。当時はこの病は対処法がないのか、薬も処方されず、

「時間をかけて治すしかないですね」と言われた。

「気持ちが落ち込み、自殺、家出、離婚、廃業など極端な方向に向かう人がいるので、行動にはいつも注意しておいてください」とも言われていた。