しかし、この谷の風たちは違いました。わたしの目に見えるところにわたしのこどもたちを運んでくれていたのです。それに気づいた時、わたしにとってそれはなんという驚き、そして慰め励ましだったことでしょう。

わたしのこどもたちは山のふもとや、谷間、岩のあちこちに根を下ろし、わたしの知らないうちに成長し、高い木になり、たくさんの花を付けたのです。わたしやわたしの母と同じ色の花を付けて山や谷を埋め尽くしていたのです。

新しい歌

新たな愛がわたしの心を嵐のように揺さぶりました。それで、わたしは歌わずにはいられなかったのです。

わたしとこどもたちの間は、実際は、いくつもの山や谷で隔てられ、言葉をかわせないほどに遠かったけれど、わたしの心はかれらの花の色を目にするだけで高鳴りました。

風の吹く日、わたしはこどもたちに向けて精一杯の声を張り上げて歌いました。

「わたしの歌を風は届けてくれただろうか? こどもたちは母がここで今もひとり生き続けていることを知ってくれただろうか? こどもたちの元気な姿を見て喜んでいることを知ってくれただろうか?」

そう思いました。

また、わたしはずっと昔に別れてしまった母や兄弟たちのことも思い出し、彼らのためにも歌いました。彼らがどこかでまだ元気でいることを心から願いました。たとえ、また会うことがないにしてもです。

わたしはいまもなお風の中に彼らの姿を思い描いているのだということ、それも、知って欲しかったのです。そして、わたしの声がいつか彼らに届くことを願いました。

※本記事は、2021年3月刊行の書籍『思い出は光る星のように……』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。