若者になったチャップ

出会ったときは二本の足でヨチヨチ歩いていたチャップだったのに、体が大きくなり、羽根の力も強くなると、はるか遠くの谷や山まででかけるようになりました。そのたびに珍しい木の実や花をくちばしにくわえて来て私に見せてくれました。そして、わたしが決して見ることのできない地上の世界のことをいろろ語ってくれるのです。その時は、わたしにとって本当に楽しい時間でした。

月夜のきれいな夜でした。その日はとりわけ、チャップにとって楽しいことがあった日でした。それでチャップは、ごきげんで羽根やかた足を器用に動かし、体を揺さぶって踊り出しました。その後、わたしとチャップは夜明けまで語り続けました。

その夜は、チャップと過ごした日々の中でもひときわ懐かしい思い出となっています。

チャップお父さんになる

チャップが恋をしました。そして、ある日ついにその恋人をわたしの前に連れてきました。雪のように白い羽根をした美しいフクロウでした。

そして、まもなく、チャップは父親になりました。ヒナたちが何とか飛べるようになると、チャップは母親の巣からかわいい四羽のこどもたちを連れだして、わたしに見せてくれました。

チャップの死

それから長い時間がたちました。

きれいでつやつやしていたチャップの羽根が抜け落ち、鋭く輝いていた自慢の目が曇るようになり、飛ぶ力が衰えているのがわかりました。チャップはわたしのところへやってくるのもやっとのようでした。やってきても、じっと目をつぶってだまっていることが多くなりました。狩をするのも難しくなっていました。

それまで、わたしは、いつかチャップがいなくなる日が来ることなど考えたこともなかったのです。

しかし、ある日チャップはとうとう姿を消しました。

だれもチャップがどこにいったか知りませんでした。姿を消す前の日のことです。チャップはヨタヨタとやってきて長いことわたしをじっと見上げていました。何か言いたそうでした。しかし、結局何も言わず、首を二、三度振っただけで、とんでいってしまいました。きっと、最後の力を振り絞ってやってきたのでしょう。そして、やはり、最後の力をふりしぼってどこかへ行ってしまったのに違いありません。どこかの茂みの中で、あるいはどこかの岩陰でひっそりと死を待つチャップの姿が思い浮かびました。

わたしには、「さようなら」というチャップの声にならない言葉が悲しげな眼差しから痛いほど伝わってきました。わたしも心の中で何度も叫びました。

「さようなら、わたしのチャップ」今でも、その時のことを思い出すと、涙があふれます。

※本記事は、2021年3月刊行の書籍『思い出は光る星のように……』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。