また、世界的に有名な「香港上海銀行」が、2050年の世界経済についての予測のレポートを出している。そこには2050年までの各国の経済動向が、「高成長」、「成長」、「安定」の三つに区分されており、日本は「安定」に区分けされている。その予測の根拠要因として人口、教育水準、法の統治、民主化水準などがあげられている一方で、私が重要だと考える「ベンチャー精神」が考慮されていない(考慮したくても、それを数値化するのは難しいだろう)。

だが、いまの日本のように新しいことにチャレンジせず、石橋を叩いて渡るような安全志向が続けば、日本経済はとても「安定」という区分にいることはできないのではないか、と懸念している。

私も別に、受験の偏差値のようなランキングだけにこだわっているわけではないが、まわりの国から取り残されていくだけでなく、貧しくなっていくと犯罪が増えるのが心配だ。「衣食足りて礼節を知る」という言葉――生活に余裕があって初めて人間らしいマナーや礼儀に気を配ることができる、逆に言えば、生活が苦しければマナーなどに構っていられない――これは本当だ。

これに関連して、平成17年(2005)に南米のアルゼンチンに行ったときの体験をご紹介したい。日本から見て地球の反対側なので、ほとんどの人はタンゴくらいしかイメージのわかない国だと思うが、20世紀の前半までは世界有数の先進国で、日本からもその豊かさを求め多くの人が移住した。首都ブエノスアイレスは、かつて先進国であった頃にできた街並みが美しく、「南米のパリ」という表現どおりだった。

だが、街並みの美しさとは裏腹に、当時は貧しさゆえの犯罪が多かった。夜、車に乗るときは赤信号でも車を完全に停止するのは危険と聞いて驚いた。強盗に横から銃を向けられるからだそうだ。少しずつ速度を落とし、横切る車が来ないのを確認したら赤信号でも前に進む。また、取引先の人からは、身の安全の保証ができないのでホテルからは出ないようにと言われた。

次に、少しカタイ話だが日本と外国とのお金のやり取りの状況を示す経常収支について見てみたい。経常収支は貿易収支、サービス収支(旅行業など)、所得収支(配当、利子)などの合算だ。全体で見ると幸いまだ黒字だ。

だが、その内訳に注意が必要だ。いまや年によっては、貿易収支が赤字になっている。昭和末期から平成初め頃まで貿易黒字が大き過ぎて、世界からねたまれていた時代を知る人間からすると驚くべき変化だ。テレビなどでも特集を組むなどもっと注意されてもいいはずだが、残念ながらあまり話題にもなっていない。

少し余談になるが、いまはSNSやネットニュースなどで処理できないほどの情報があふれている。特に有名芸能人の不倫が発覚したりすると、たちまちそのネタであふれる。その一方で、貿易赤字などは地味で別に面白い訳でもないから、ネタにもならない。だが、こういう時代だからこそ、芸能人の不倫のようなことと、貿易赤字のようなことのどちらが重要かを見きわめる目が必要ではないだろうか。

話は戻って、いまは貿易の赤字を所得収支の黒字でもってカバーできているから、全体で見れば黒字だ。だが、あえて意地悪に俗な言い方をすれば、これは先祖の遺産が生み出すもうけで食いつないでいる状態ともいえる。

そして、日本の国債残高が増えても海外からあれこれ言われないのは、この経常収支が黒字であるおかげだ。つまり、国債残高が約1000兆円を超えても国内の個人金融資産だけでも約1800兆円あるから国内で消化できていて、ほかの国から借金をしなくても済んでいるからだが、見方を変えればほかの国にとって単に「人ごと」に過ぎないから口をはさまないだけ、とも言える。

だが、一転して、経常収支が赤字になればほかの国から借金をしなければいけないが、そのときにほかの国の態度がどうなるかということも頭に入れておくべきだと考える。