第二章 妻へ 2

「何を言えばいい?」

事務所の奥に設置されたブースでビデオカメラを向けられて、高坂が言った。

「考えていらっしゃらなかったのですか?」

最初に事務所を訪れたときに高坂は説明を受けたが、男の説明で覚えているのは「遺言としての法的な効力はない」ということと、料金体系だけであった。

「奥様にお届けすることをご希望ですよね。前にも説明しましたとおり、そのときの奥様のお気持ちを想像して感謝の気持ちを伝えたり、励ましたりするのがよろしいかと。思い出話を一時間話した方もいらっしゃいました」

「思い出話なんか、死ぬ前にいっしょに話した方がいいだろ」

「ご事情はそれぞれですから」

男は深呼吸をした。

「よくご検討されてから、再びお越しいただくのはいかがでしょうか」

「ここで考えちゃだめなのか」

「ご作成されるのでしたら、メッセージの内容について時間をかけてよくご検討されてからの方がよろしいかと」

「あんたは、俺が死んだってどうやって分かるんだ?」

「前にも説明しましたとおり、お届けする相手に予め伝えておくやり方と、『そのとき』を知ることができる第三者に伝えておくやり方があります。その方から連絡を受けて、お届けすることになります」

「女房に言えば、『いらない』って言うよ」

「では、どなたか別の方に」

「そんなやついないよ」

「では、たとえば、『自分が死んだら観てください』と書いた封筒に入れて机の中にしまっておくというのはいかがでしょうか。それでしたら、お届けはせず作成だけになりますので、料金は」

「机は処分したよ」

「たとえばですので、押し入れの中とか、通帳が置いてあるところとか」

「気づかれないで捨てられたら?」

「そうなったら仕方ありません」

その後もいくつかのやりとりが続いたあと、高坂は部屋を出た。

そのため、二週間後に高坂から電話があったことは、男にとって意外だった。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『アフターメッセージ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。