「昔は、一般的に、老夫婦と若夫婦と子供の三世代が一緒に暮らしてた。そやから、生活費には、住居費なんかの家族規模に左右されにくい基礎的経費があるから、別々に暮らすよりは、生活費が低くすんだはずや。

食費でも家族が多かったら、規模の経済性というたら大袈裟やけど、一人当たりの食費は割安になると思う。昔は今みたいにおかずが贅沢というか豊富でなかったこともあるけどな。

ところが、核家族化で、老夫婦世帯と親子二世代世帯が、別々に生活するようになると、生活費が割高になる。昔は老夫婦の収入や預貯金がわずかでも、若夫婦の収入で三世代がなんとか生活できてたみたいやけど、今はそうはいかんのや。老夫が現役を退くまでにある程度の貯蓄があったとしても、老夫婦2人だけで生活するには一定の年金収入が必要になったんや。

定年退職までに、一生生活できるだけの貯蓄ができる人は少ないからなあ。そこで、年金問題が大きな社会問題にもなるんやと思う。三世代が一緒に生活せえへん核家族化は、良い面もあるやろけど、育児・家庭教育・生計費なんかに、大きい弊害を生んだように思う。

また、必然的に、過去よりも多くの住宅が求められるようにもなったんや。そやから、核家族化がいろんな面で、社会的・行政的にも、さまざまな課題を投げかけたんや。独居老人の孤独死なんかもその一つやで。永い視野に立って、国家的レベルで、三世代家族というもんを見直してもええんとちゃうかと思う。もちろん、その時は住宅規模も問題になるけどな。

けど、やっぱり、今一番に思うことは、親が子供を虐待したり殺したりする、この風潮をなんとかせなあかんということや。これは、重大な国家国民的問題やで。人として正しく生きていく指針としての道徳教育を否定できひんと思う」

「お前の言うことはよく分かるよ」

と茂津は真顔で言った。

※本記事は、2021年3月刊行の書籍『海が見える』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。