数時間後、やっとICU(集中治療室)に戻った父に駆け寄ったが、まだ麻酔が効いているようで意識がない。それで、私がもう帰っている頃と、自宅に戻ったのだ。母に電話を入れ、二人で寝ている父を確認してからの帰り道、白々と夜が明けようとしていた。

「長野県下伊那郡阿智村の……熊谷典章教育長……飲酒運転で事故……」

朝6時、SBC(信越放送)のテレビニュースが、ぼんやりした頭に夢のように聞こえてきた。

私も妻も、何がなんだかわからない。ただ、ハッキリしているのは、父が責任を取るということだ。辞職願を代筆して父に会った。

「村長に迷惑をかけて申しわけないと伝えてほしい……」。

その足で黒柳村長に会った。

「ケガの状態はどうか、そうか……あとのことは心配しないよう」

病院に戻ると警官が2名、昨夜の確認に来た。

「医者の許可がないので息子さんの署名でいいですよ」

と、事故調書を見せられる。「自損事故」、それ以外書かれていない。

「飲酒運転では?」

と問うと、警察へ二人の人物から事故発生の電話が入ったという。

先の一人は匿名、続いてS新聞の記者からだった。どちらも「飲酒」と言ったから、自損事故なのにわざわざ再確認に来たというのだ。

「そういえば」

と、妻が言った。

「私が病院に着いたとき、S新聞の人がバタバタしていた」

※本記事は、2021年2月刊行の書籍『空模様』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。