生まれて五ヵ月程度の幼児であるから、泣いてばかりで、騒がしいだろう、と想像していた。しかし、終始おとなしく、座席の周りの人達が、思わずあやしてくれたとか。長女も安堵したそうだ。

そして、実際に我が家に来たら、なかなかの人気ものとなってしまった。寝起きでも、愚図らず、にこにこと笑っている。

「おはようございまちゅ! 大輝(だいき)でちゅ」

「ジージー抱いてくだちゃい」

まだ、ろくろく声も出せない孫に、代わって、抱いて話し掛ける娘。長女は、もともと子供が好きだと、言っていたので、なかなか堂に入ったもの、何時も語り掛ける様にして、あやしたりしている。

これも、一端(いっぱし)の母親になったと言う証であろうか。私は正面から、きちんと大人に話す様に、語りかけた。

「大輝クン起きたかね、九州をよく覚えておくんだよ!」

勿論分かるわけもないのだが「あぁ」「うウー」とか言って、何か真剣に聞いているような、素振りで、何かを感じとってくれているのか、眼も輝いている様だ。

ジジ馬鹿、ババ馬鹿を発揮したのは、言うまでもない。する事なすこと、可愛くて面白い。妻も普段だったら、やれ疲れただの、首が痛くなったとか、零(こぼ)すのだが、孫が居る間は一言も言わず、孫の名前を連呼しながら、喜んでいる。

子供の成長は早い。一週間も経って来ると、寝返りが打てたと喜び、長女は留守宅の婿にせっせと、メールや電話で報告をする。形は違っていても、やはり三十年以上も昔は、自分も同じ事をしていたのだろうか。振り返ってみたくもなる。

子供と孫とでは、こんなにも、接し方や気持ちが違うのだろうか。今の自分を考えてみる。

最近、既婚女性の職場復帰を、真剣に採り上げる企業が増え、実際に受け入れている。

嘗て職場の女性は産休も遠慮しながら申し出、しかも産前産後数週間が限度と言ったものであった。もともと結婚退職が前提で、就職をしなければならなかった、当時のサラリーガール・オフィスレディー……。

今は堂々と休みを取り、職場へも意気揚々(ようよう)?として、戻れる時代となって来た。我が娘も会社に連絡をとり、復帰の時期と勤務場所の相談をしているとの事。

しかし、孫は、こんなに小さい時から保育所に預けられて、大丈夫だろうか?

親の顔もろくろく憶えてもいない頃から、他人に託される。なんだか可愛そうな気もして来る。まあ、考えてみれば、却って早くから集団に慣れて、順応性も豊富になるかも知れないし、大人の社会への溶け込みも、スムーズに行くのかも知れない。

時代はどんどん変わって行く。我々世代が為し得なかった事を、経験して行こうとする娘夫婦に、結果は兎も角、今はエールを送っておこう。

※本記事は、2021年3月刊行の書籍『孫の足音』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。