紅茶に含まれるMAFとは

木村さんはさっそく中田教授の提案を実行に移しました。

その結果、ウーロン茶を分画した5つの成分のうちの一つが、テトラヒメナのミトコンドリアの膜電位をドラスティック(驚異的)に上昇させることを見つけました。

コントロール(対照実験)では、テトラヒメナのミトコンドリアはうっすらとしか光っていませんでしたが、ウーロン茶成分(MAF)で処理したテトラヒメナではミトコンドリアが緑色にピカピカ光っていました。

この顕微鏡写真(図1)を見て、私は本当に感動しました。

[図表]MAFで処理したテトラヒメナのミトコンドリア。
左図:テトラヒメナを5%ジメチルスルホキシド(DMSO)で処理した後、ローダミン123で染色した細胞の蛍光顕微鏡像。
右図:テトラヒメナを5% DMSOに溶かしたMAF(0.1mg/ml)で処理したのち、ローダミン123で染色した細胞の蛍光顕微鏡像。

どのくらいミトコンドリアの膜電位を活性化するか、数値で示したいと考えました。しかし、一つ大きな問題がありました。蛍光光度計の良いものが当時(1999年)の沼田研究室にはなかったのです。

そこで、木村さんは東京の株式会社オリンパスのショールームに、ウーロン茶成分で処理したテトラヒメナと処理しないテトラヒメナを持ち込み、ローダミン123で染色して、最新の蛍光顕微鏡で蛍光の強さを測定したのです。

その結果、ウーロン茶のどの成分がどのくらいミトコンドリアの蛍光強度を上げるかを測定することに成功しました。この結果は、ウーロン茶のなかからミトコンドリアを活性化する成分を抽出分離するための検定方法を私たちが獲得したことを意味します。

木村さんの卒業研究の内容はとても充実したものでした。彼女の顔は輝いていました。木村さんはサントリーの入社試験を受け、思惑通りめでたく採用されました。

細田君いわく、社長面接の後、社長さんが「彼女を育てられる人材がいるかなあ」と言ったとか。社長さんは木村さんのスケールの大きさを見抜いていたようです。

私が木村さんのスケールの大きさを実感したのは次のようなことからです。

彼女は、9時から17時まで研究室で実験した後に、アイススケートリンクの空いている深夜から早朝にかけて、アイスホッケーの練習に汗を流していました。

そんな生活が卒業研究発表日の間近まで続いていました。なぜなら、全国大会が卒研発表日の直前にあったからです。全国大会まで部長としてリーダーシップを発揮している彼女の姿を見て、とてつもなくスケールの大きな学生だなあと思ったものです。

この全国大会は日光の古河電工アイスリンクで行われました。私も学生たちと一緒に応援に行き、リンクを縦横無尽に滑り回る彼女らの情熱に感動したのを、昨日のことのように思い出します。