一週間後の月曜日。

「こんばんは」

「俊平さん。いらっしゃいませ」

美紀がカウンターの椅子を引いた。

「傘をありがとう。あれから急に降ってきてね。おかげで濡れずにすんだよ」

美紀が傘を受けとった。

「大将、この間は大丈夫だった?」

「本当にありがとうございました。俊平さんのおかげでちょうどうまい具合に女性グループと男性グループが入れ替わることができました。今日の一杯目はお店からお礼させていただきますね。ビールでいいですか?」

「本当に? 嬉しいね~。じゃあ生一つ」

「しかもですね~、入れ替わるとき、女性グループと男性グループが少し話をしたらしくて、今度合コンするみたいです」

「若いもんはいいね~。さてと、今日のおすすめは? 今日はまさかないよね。もちがつお」

「それが、なんとあるんですよ~。それに合わせて地元の酒蔵『蝶の舞』の冷酒はいかがですか? キリっとして刺身に負けない味ですよ」

「いいね~。じゃあかつおとそのお酒。両方頼むよ」

勢いよくグラスに残ったビールを飲みほした。身体と心にしみいる美味さだ。やっぱりなんだかんだで人生助け合い。助けてもらうのも嬉しいけど何か人の役に立てる、そんなに立派なものじゃないけれどこんなに美味しく飲めるものなんだなあ。

「ちょっと~大ちゃん。この間はありがとね」

ガラガラと扉が開いて月子さんが入ってきた。

「あ、スズキフラワーさん。あなたの提案で大ちゃんの窮地を救ってくれたそうね。私からもお礼を言うわ。ありがと」

「いえいえ、そんなたいしたことじゃ」

「それがね、女性グループも男性グループもうちの店を気にいってくれたみたいで、また来てくれたのよ。うちって二階だから一見さんは入りづらいでしょ。お客さん増やしてくれてありがと。スズキフラワーさんは福の神ね」

「そんな、そんな。それに俊平でいいですよ」

「そうそう、女性グループが持っていたガーベラ。すっごく綺麗だったわね。それに水切りもちゃんとしていて感心しちゃった。それでね、うちの店のテーブルにもお花を飾ろうかと思うんだけど、週に一度お花を活けに来てもらえるかしら。お値段とか、どんな感じ?」

わおっ! 巡り巡って俺にもいいことあった!

「月子さん。ありがとうございます。明日にでもお店に伺って詳しくお話させていただきますね」

「俊平さん。はい、もちがつお。薬味はショウガとニンニク両方おつけしておきました」

「相変わらず気がきいてるね」

厚めに切られたもちがつおに、ショウガ醤油をつけて…。

やっぱり美味いな~、このモチモチ感、最高だよ。そしてそこに『蝶の舞』の冷酒を一口。力強いかつおに合う辛口だ。

なんだか今日は酒も肴も格別美味く感じる。

大きな一切れを頬張る俺を見て大将が微笑んでいる。月子さんが笑っている。来週もまた来ちゃいそうだな。

「大将、このお酒、もう一合ね。それと焼酎のいつものボトルも追加で入れといて」

※本記事は、2021年3月刊行の書籍『微笑み酒場・花里』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。