しかし、ウーロン茶成分はことごとく酵素活性を上昇させなかっただけでなく、驚くことに、活性を阻害する酵素もありました。

はたと困った彼女は、ミトコンドリア研究の権威である林純一教授(1999年当時。現在は名誉教授)の研究室を訪れ、林教授の右腕である中田和人教授(当時は助教授)に相談しました。

中田教授の提案は素晴らしいものでした。

「酸素呼吸が盛んになるのならば、ミトコンドリアの働きが盛んになっているはずだ。

ミトコンドリアの働きを見るためには、ミトコンドリアの膜電位を測定するのが一番の早道。

素晴らしいことに、ミトコンドリアの膜電位は簡単に調べることができる。

ローダミン123という染色剤で細胞を染めると、膜電位が高いミトコンドリアは緑色の強い蛍光を出す。

テトラヒメナにウーロン茶成分をかけて、それからローダミン123で染色すれば、ミトコンドリアが活性化しているかどうかはすぐにわかるよ(図参照)」

図.ミトコンドリアの構造とローダミン123の働き。ミトコンドリアは外膜と内膜の二重の膜で囲まれています。外膜と内膜の間を膜間腔と呼びます。内膜で囲まれたマトリックスに、内膜が陥入してクリステを形成しています。内膜上の電子伝達系によって、水素イオン(H+)が膜間腔にくみ出されます。水素イオンが膜間腔にたくさんたまると膜電位が大きくなります。ローダミン123は水素イオンが多いと強い蛍光を発生します。水素イオンがATP合成酵素を通ってマトリックスに流れ込むエネルギーで、ATPがつくられます。
※本記事は、2021年4月刊行の書籍『誰も知らない紅茶の秘密』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。