宗がさらに話を続けようとしたが、茂津が口を挿んだ。

「まじめな宗さんよ、そう怒るなって。ちょっと言い過ぎなところがあるぜ。

まず、俺は神なんて存在するはずがないと思ってるよ。

神がいるなら、何故、戦争で何の罪もない人たちが残虐行為で殺戮されたり、女性や幼児・赤ん坊を含めて、何十万人という日本人がアメリカの投下した原爆で無残に焼き殺されたり、地震や台風といった大規模災害で罪のない大勢の人が死ぬんだよ。

神がいるなら、罪のない善良な人々を守ってくれるはずじゃねえのか? ひどい目に遭うのが悪人だけならまだしも、罪のない善良な人々が悲惨な目に遭ったりするのは、どういうことなんだよ。神はいるのかい?

それに、俺に言わせりゃあ、どんな時代も人間の世の中というものは、デタラメなものと相場が決まってるんだよ! 違うかよ! 今の時代だけが乱れていて、デタラメっていうこたあねえぜ。

全ての人が清く正しく生きて、全ての人が平等に扱われて、正直者が報われて、ずる賢い野郎どもや悪党どもがどこにもいなくて、社会の全ての人が幸せに暮らしていた、そんな時代が人類の歴史上、いつどこにあったんだよ!

これから先も、そんな世の中は絶対にこねえよ! チャンチャラおかしいやってえんだ!

人の世の中は古今東西を問わず、どんな政治体制でも、いつもデタラメや不条理が横行するんだ。権力を握った奴は、みんな変身して悪党になっちまうのさ。

権力は時間とともに腐敗していくのさ。正直者がバカを見て悪党どもがうまい汁を吸うんだよ。違うかよ。人の世は、いつの時代も同じようなもんさ。

人間の本質は変わらねえんだよ。残念ながら、その中で、悪党になって生きるか、そうじゃなかったら、たとえ悪党どもに虐げられても、地べたを這いずり回るようにしてでも、誇りを持って自分らしく生きるしかねえんだよ!

それが嫌なら人間なんてやめちまえ! 腹を立てても、仕方ねえんだよ!」

と吐き捨てるように言った。

これを聞いて「なんやと!」と宗は顔を真っ赤にして、茂津を睨みつけ怒鳴った。

※本記事は、2021年3月刊行の書籍『海が見える』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。