しかし義母とすれば、むしろ家族の一員として同じ空間で生活できるものと完全に思い込んで同居を決めたのだという。

お互いの思っていた理想と現実があまりにもかけ離れすぎていたためか、同居し始めて2、3ヵ月経った頃からたびたび、

「景子ちゃんのところに行ったらあかんかなぁ」

と電話してくるので、義母の本心をお義姉さんにちゃんと伝えたほうがいいと思うと話すと、

「せっかく良くしてくれてるのに、そんなことよう言われへん。景子ちゃんが話してくれへんか」

と言うのだった。

それで私は、その時こう伝えた。

「私のところへ来たければてあげる。でも…やっぱり戻りたいと思った時に困るのはお義母さんやから、一回遊びに来てみて、嫌やったら帰りいな」

すると義母はその後、本当に遊びに来て、そのまま一緒に暮らすことになったという経緯だ。

しかし孝雄は、自分の実の母親だというのに歓迎しているふうではなかった。結婚してから家のことは一切手伝ったことがない夫である。当然介護もすべて私に任せきり。

義母を引き取ることになったからといって、何か負担が増えたわけでもないのに、ある時、

「お姉ちゃんのところへ行け、帰れ」

と義母に言っているのが聞こえた。それで後になって、

「お義母さんの気持ち、全然わかってないやん」

と私がたしなめると、

「俺に何のうらみがあるんや。おふくろをいじめるのはやめてくれ! 俺がそんなことを言うわけがないだろう! もう、おまえとは口利かないから」

と、なんだか話のかみ合わない、まったくズレたことを返してくる。

(はあ? 誰がいじめてるって? 自分はデイサービスに送りもせえへんのに。それに、そんなこと言うわけないって…ほんのさっき言ってたやん!)

瞬間面喰めんくらった私だったが、よくよく考えてみれば、孝雄は弟という立場ではあるが長男である。同居するなら当然母親は長男の家を選んでくれると少なからず確信していたに違いない。

しかし実際には、姉のところに行くと決めた母親がいて、そのわだかまりを消すことができていないうえに、こうなったのも私が原因だと思っているのかもしれない。

※本記事は、2021年4月刊行の書籍『夫 失格』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。