回転――何が相手のためになるのか

皆様は「回転」という言葉を聞いてどんなことを思い浮かべるでしょうか。地球が回ることでしょうか、回転寿司のイメージでしょうか、エンジンが回転する光景を思い浮かべますか?

私の会社員時代の「回転」とは24時間店舗で働き続けることです。

社会人生活にも慣れはじめた半年目からは、シフトの管理を行うようになりました。シフトを管理するうえで上司に言われたことは「回転はするな」でした。初めは「回転」と聞いても意味が理解できませんでした。

この「回転」が意味するところは、朝の9時に出勤したら次の日の朝9時までお店で働くことです。私が入社した時代は労務管理がまだ甘い時代でしたから、「回転」する先輩社員や同期社員は多くいたと思います。

そのような中で最初に課せられた上司から私への課題が「回転はするな」でした。

そもそもなぜ「回転」という現象が起こるかというと、慢性的な人員不足に陥っている店舗が多く、根本的に人が足りなかったためです。

当時は入社1年目から3店舗程度のシフト管理を担当させられました。右も左も分からない状態ですが、店舗は24時間営業です。全員が全員上手に店舗運営できるわけはなく、そのため「回転」という企業ワードが生まれていました。

実際に私の同期は2回転、3回転する人もいましたし、企業内の伝説ですが先輩には最高で7回転したという方もいました(本当か嘘かは分かりませんが)。

余談ではありますが、給料や残業代はしっかり支払われていましたので、入社1、2年目でサラリーマンの平均月収を優に超えている社員もいました。

もちろん、今はそのようなことはなく正常な労働環境になっていますが、当時はそのような環境で「回転」をしないことがミッションだったのです。

入社半年が経った頃から、本格的に店舗の人員シフトの作成、人員の調整を行います。私は担当する店舗数が6店舗に増えていました。

その時に気づいたことは、回転をしたことがある人と、回転をしたことがない人がいるということです。違いは何かを私なりに分析しました。

1点目は嘘をつかないことです。回転をしない先輩はアルバイトの方からの信頼が厚いのです。そのため、人員不足に協力してくださるアルバイトの方が多くいました。

信頼が厚い、を私なりに紐解くと、嘘をつかないことだと思います。従業員に対してできることとできないことを真摯に受け止め会話をすることだと。

これは、ある日の先輩とアルバイトの方のやりとりです。大学生のアルバイトが、「時給を上げてほしい」と言ってきました。

すると、その先輩は第一声で「できない」と返答しました。

その後「なぜなら…」と、昇給が難しい理由と、どうしたら時給は上がるのかをしっかりと説明されていました。

相手に嫌われないように「意見は参考にする」など、その場しのぎの言葉でも並べたらいいのにと思ったりもしました。

しかし後日、その大学生と話す機会があったので聞いてみると、「はっきり言ってもらえて嬉しかった。良くない点も指摘してもらえて、どこを直せばよいか分かった」と言っていました。

その後も、違うアルバイトの方から「Aさんははっきりものを言ってくれるからありがたい。あいまいな表現で問題から逃げないから分かりやすい」という意見を多く聞きました。

私はまずこれを徹底することにしました。できることはできる、できないことはできない。美味しいと思ったら美味しい。美味しくないと思ったら美味しくない。オペレーションが良いと思ったらオペレーションが良い。オペレーションが遅いと思ったらオペレーションが遅い、と。

簡単そうに聞こえるかもしれませんが、マネージャーには意外と難しいことです。9割の人は何らかの嘘をついた経験があると思います。

また、嘘をつくつもりや悪気がなくても、結果的に嘘になってしまう場面は多々あります。なぜなら、複数の店舗を運営しているとトラブルが尽きないからです。

例えば、ある店舗に何かを持っていくという約束をしたとします。しかし、約束した日に別の店舗でトラブルが起きたとします。

するとその日は約束が果たせなくなり、待っていた従業員からすれば「わざわざ待っていたのに何事だ。嘘をついた」となってしまいます。

私はそのような故意ではない嘘をつかないためにも事前準備をしっかり行い、できない約束はしないことを徹底しました。

そうすることで、相手が高校生でも主婦でも年配の方でも、従業員からの信頼が集まってきました。