インフォームド・コンセントについて

ご家族に「ご自身がこの状況ならどうしますか?」とお聞きすると「自分なら絶対に胃ろうはしたくないが、親には胃ろうをしてでも、少しでも長く生きてもらいたい」と言う人が多いです。

特に、これまで本人と離れて暮らしていたご家族の場合は、そのような考え方をする方が多いと思います。

普段、親孝行できなかった代わりに、せめて長く生きてほしいと思うのでしょうか、それとも若くて元気であった頃のイメージが抜けきれず、親が死ぬということを理解できないからでしょうか。

いずれにしても、私から見れば、本人が気の毒に思えてなりません。

逆に「普段から父は延命治療を希望していませんでしたので、できるだけ苦しまないように最期を迎えさせてあげてください」と言うご家族もいらっしゃいます。普段から今際(いまわ)の際(きわ)のことについて、よく話されていたんだと思います。

このように、最期は自分のインフォームド・コンセントをご家族などの他者に依頼しなくてはならない可能性が高く、普段からよく今際の際についてご家族と話し合っていた方がいいと思います。

また、インフォームド・コンセントを重視するあまり、「人工呼吸器は希望されますか? されませんか?」「人工呼吸器を希望されない場合、特殊なマスクでの補助呼吸は希望されますか? されませんか?」「心臓マッサージは希望されますか? されませんか?」「人工透析は希望されますか? されませんか?」「昇圧剤は希望されますか? されませんか?」など事細かく聞く医師もいます。

私は医療のプロではないご家族に、こんなに事細かく聞くのはいかがなものかと思います。それなら「抗生剤はどの種類にしますか?」「血液検査は何日に1回にしましょうか?」など、すべての医療行為について本人や家族の意向を確かめなければいけません。

私は医療のプロである医師が、終末期においても最適な治療を行えばいいのではないかと思います。もし、いろいろ医師から聞かれて迷ったなら、「先生や先生のご家族ならどうされますか?」と質問してみてください。

価値観の違いはあるかもしれませんが、きっといいヒントがあると思います。その上で、「無理な延命治療は希望しません」などとお答えになるのがよいのではないでしょうか。

昨今の医療においては、インフォームド・コンセントの証明となる同意書というものが重視されます。私が医師になった2001年当時は、今と比べれば検査や治療における同意書はすごく少なかったと思います。

しかし、2004年頃から数年間、医療訴訟が非常に多くなり、マスメディアでも医療ミスの話題が多く報道されました。その影響もあると思われますが、急速にさまざまな検査・治療で同意書が増えました。同意書の内容も徐々に細かくなり、万が一の重篤な合併症のことにも触れる同意書ばかりです。