オペレーション――細部をおろそかにしない

私は大学時代そのままの気持ちで、社会人1年生になりました。

大学時代に掲げた「常に目の前の人を大切にする」という軸を心の中に持ち、社会人としての一歩を踏み出したのです。入社して最初に教育を受けたことは、店舗でのオペレーション(作業)スピードがいかに大切かということです。

特に新入社員はオペレーションの研修を徹底的に行います。具体的には、調理の際に食器を取る動作や、横への移動の仕方、細かいところでは指1本の使い方までチェックされます。フロントでも接客や料理を提供する動作を1秒単位で練習します。

このような教育に、入社当初の私は正直疑問を抱いていました。

曲がりなりにも業界1、2を争う企業です。初めに売り上げ向上やシフト管理などを行うと思っていた私は、食器を早く取る動作で1秒を縮めるために何度も練習をしたり、お客様がいらっしゃらない時の姿勢や足の位置まで練習することに何の意味があるのだろうと思っていました。

しかし、私の疑問とは裏腹に、入社後の昇進試験ではこのオペレーション項目が昇進を決めるほどウエイトが高く、オペレーション項目は管理職になるまでずっと試験項目に入っていました。

食器を洗うスピードで昇進するかが決まるのです。スピードは身体能力の差だと決めつけ疑問を抱きながらオペレーションをやっていた私は、案の定、最初の試験では100人中80位とギリギリラインでの合格でした。

ある日、当時の上司に言われました。

「試験に受かることが目的になっているでしょ。オペレーションを本気でしていないよね。オペレーションから学ばないという姿勢なら否定はしないけど、なぜ今オペレーションをここまでやっているか考えたのか? これを自分で考えられるようにならないと、今後の人生での仕事の姿勢は全部そうなるよ」

と。私の気持ちが入っていないことが全部ばれていました。そこでこの言葉を思い出しました。

「頼まれごとは試されごと」

たった1秒をこのように言われる意味は、今はまだ分からない。でも、まずは徹底的にやってみようと決めました。

その日から、私は毎日13時間オペレーションの練習を行いました。やっていくうちに1秒の大切さに気づきます。

私がいた飲食店は1日で約500の商品が注文されます。500の商品のうち一つを作るのに1秒早まると500秒、約8分間の余裕ができます。

食器洗いも同様です。500商品×1秒早くなるだけでさらに8分、トータル16分の余裕ができます。16分もあればできることはたくさんあります。お客様との会話にその時間を使うこともできます。一言多く必要な接客ができるかもしれません。そして、その接客がお客様の支持を得ることにも繋がっていくのだと感じました。

イチロー選手は

「小さいことを積み重ねるのが、とんでもないところへ行くただ一つの道だ」

と言います。細部をおろそかにせず一つ一つを大切に積み重ねることがすべての成果に繋がっているのだと実感しました。

また、オペレーションの速さは身体能力だと思っていましたが、それだけではないと感じてきました。体を動かすことを細分化して遅い真因(ボトルネック)までたどり着かないことには速くはならないからです。

オペレーションを速くするということは、単に動作を速くするのではなく、遅い原因をその真因まで深く分析する思考を癖づけるものでもあると考えました。