さとるは、几帳面なところがあって、きちんと書類を法律に従って作成していく司法書士という仕事が、自分には向いているなと思っていた。さとるの几帳面な性格は、さとるのワンルームの部屋の中にも表れていて、常に整理整頓され、隅々まで掃除されてある状態を保っていた。

さとるは、一年ほど付き合った彼女がいたが、その彼女に、さとるは几帳面過ぎて疲れると言われて振られてしまい、気分を立て直すために、飯田橋の料理教室に通うようにしたのだった。その料理教室で弓子を見かけ、弓子が肌がきれいで、セミロングの髪がストレートでつややかで美しく、背筋がまっすぐで、笑顔が明るいことを発見して、好ましい女性だなとの印象を受けていた。

初めは、付き合っていた彼女に凡帳面過ぎると言われて、自己否定された気分になっていた自分だったが、料理教室で弓子から、キッチンのシンクをピカピカに洗い上げたことを褒められて、自分で自分の長所だと思っている凡帳面という性格を認められた気分になっていた。それで自分は弓子から受け入れられたと思い、弓子のことをいい人だと思うようになっていた。

さとるは、神楽坂を下っていき、神楽坂下の交差点を渡り、飯田橋の改札の前を通過して、料理教室のあるマンションの前に到着すると、先生の部屋へと入っていった。そこにはすでに生徒の皆が集まっていて、エプロンをつけたり、髪をまとめたりしながら、教室が始まるのを待っていた。

キッチンは八帖ほどの広さのあるダイニングキッチンで、部屋の中央にダイニングテーブルが置かれてあった。このダイニングテーブルは作業台として使われるものだ。

「皆さん、集合しましたね。おはようございます。今日は、みんなの大好きなハンバーグを作りますよ。以前にも作ったことがありましたね。何度作ってもいいんです。繰り返し作って、上手に手慣れて作れるようになりましょうね」

先生はそう言うと、レシピがコピーされてある用紙を一枚ずつ、皆に手渡した。献立は、ハンバーグ、人参のグラッセ、ゆでいんげん、ベイクドポテト、クリームコーンスープ、レタスときゅうりのサラダだった。