第一章 3人の出会い

店内に入り、ウェイトレスに案内されると、茂津は、

「へえ~、テーブルも椅子も洒落たダークブラウンの木製か。クラシック調で良いじゃないか。別当はこんな店よく知ってるなあ。誰と来るんだい」

といたずらっぽく聞いた。

「残念ながら、お前が想像してるようなことはないで。俺の家は裕福やないけど、前に家族と2~3回来たことがあってなあ、コーヒーがうまいという、印象が強かったんや。ブルーマウンテンやキリマンジェロは高いから、飲んだことないねんけど、ホットのブレンドコーヒーはかなりうまいで」

「そうかい。俺はそれにするよ」

と茂津が言うと宗も同調した。宗が、トイレに行くと言って席を離れると、茂津が勉に話しかけた。

「なあ、別当。宗は良い奴なんだけど、極論を言うよなあ。驚くことがあるよ。今日もそうだろう。言うこと全部が間違いじゃないんだけどさ」

「そうやなあ。本当に生真面目で一本気で潔癖過ぎるなあ。けど、ほんまに良い奴やで。さっきも、すぐに言い過ぎたと言うたやろ。いろんなことは、頭の中で論理的には理解できてるんやろけど、感情的にというか、性格的には許せんのやろなあ。

まあええやんかとか、しゃあないなあとか、かってにしたらええやんかとかいう、柔軟性がもうちょっとあったらと思うけどなあ。しかし、正直なところ、宗ほどでもないけど、俺にも似てるところがあると思うねん」

「ほんとだなあ」

「おいおい、そうはっきり言うなや」

「まあ、2人とも悪党じゃないっていうことだけは確かじゃねえのか。俺が認めてやるよ」

「茂津は、年のわりには達観してるというか、世の中に期待することを諦めたというか、とにかく、ええ年したオッサンみたいなとこを感じるけどなあ」

「何をぬかしやがる。オッサンとはなんだよ、オッサンとは。このアラン・ドロンに似たハンサムをつかまえてさ」

と茂津が言い返している時に宗が戻ってきた。

「何を話してたんや」

「茂津は自分がアラン・ドロンに似てる、と思てんねんて」

「冗談にしても、アホなこと言うなあ。けど、俺と別当よりはましな顔やからしゃあないか」

「宗、そんな直球で答えるなや。たまにはボケて返してくれや」