すると、そのたびにカタツムリは悲しげに泣いて王子様を呼びました。仕方なく王子様はカタツムリを背中にのせたり頭にのせたりして運びました。王子様はあちこちを歩きまわって大谷夫人の庭に住む住人たちに

「このカタツムリ君のお父さんやお母さんを知らないかい?」

と、聞いてまわりました。

「知らない」

とだれもがこたえるばかりでした。アゲハチョウもあちこち飛びまわって聞きましたがやはり誰も知りませんでした。それで結局王子様が世話をすることになりました。

アゲハチョウも喜んで王子様のお手伝いをしました。カタツムリの喜びそうな柔らかな葉やコケを遠くまで探しにゆきました。赤い葉を食べさせるとカタツムリは赤い小さな糞をします。緑色のコケを食べさせると緑色の糞をしました。

その糞の色を見るのが楽しく、また珍しくアゲハチョウはあちこち飛びまわっては、むちゅうでカタツムリのお世話をしました。それはアゲハチョウにとって本当に楽しい仕事でした。王子様とやっと一つの家族になれた気がしたからです。

ある日、いつものようにカタツムリの餌を探しに行ったアゲハチョウがその日に限っていつまでも帰ってきませんでした。カタツムリはおなかを空かせて泣き出しました。

王子様はアゲハチョウのことが心配になってきました。それでカタツムリを肩にのせるとアゲハチョウを探しに行きました。アゲハチョウを見つけました。アゲハチョウは、黄色いコスモスの下でぐったりしていました。美しい羽にはもう飛ぶ力がありませんでした。

それでも、王子様とカタツムリを見るとうれしそうにほほえみました。

「王子様。お別れです」

やっとのことでそうアゲハチョウは言いました。

「わたしの命の月日は尽きました。王子様に会えて本当にうれしかった。とても幸せでした。さようなら。カタツムリ君もさようなら」

命を失ったアゲハチョウをとむらいアリたちがすぐに見つけ、力を合わせて自分たちの巣へと運んでゆきました。

王子様とカタツムリはただただ抱き合って大きな声で泣きました。

※本記事は、2021年3月刊行の書籍『思い出は光る星のように……』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。