映画自体は成功とは言えなかったが、当時「ジーグフェルド・フォリーズ」を製作中のダンス部門の責任者ロバート・オルトンの目にとまり、アーサー・フリードを紹介される。ここからMGMと契約を結ぶとともに、芸名をシド・シャリースに変え、ミュージカルスターとしての活動が本格的に始まることになる。

その後、「ジーグフェルド・フォリーズ」や「ワーズ・アンド・ミュージック」などの作品でバレエ・ダンサーとしての実力を発揮したシャリースであるが、演技の未熟さもあり、出演した映画でこれといった印象を残すことができなかった。

均整のとれたスタイル、クールな美貌、正統なバレエ・ダンサーとしての実力を兼ね備えながら、女優としてのキャリアは停滞していた。フリードは本格的なナンバーに出演させることによってこれまでの殻を破り、シャリースの新たな境地を開拓しようと考えた。

一方ジーンは、“ブロードウェイ・メロディー”と“ブロードウェイ・リズム”の歌詞から言葉を拾い出し、それを手がかりにバレエの構想を練った。最終的に出来上がったのは、富と名声を求めてブロードウェイにやって来た若いタップ・ダンサーを主人公に、ギャングの情婦をからめたストーリーだった。

タキシード姿の男がブロードウェイ・メロディーを歌うと、タイムズスクエアのきらびやかなネオンサインが映し出され、大勢のダンサーが現れる。場面は変わり、鞄一つでニューヨークへやって来たダンサーがエージェント事務所のドアをたたく。

エージェントの案内で向かった先が禁酒法時代の潜り酒場。ここで踊り廻った彼は、居合わせたギャングの情婦に魅せられ、彼女と二人激しく踊る。しかし彼女はギャングが目の前に差し出す高価なブレスレットに目がくらみ、去って行く。

エージェントに連れ戻されたダンサーは、バーレスクからヴォードヴィル、そしてジーグフェルド・フォリーズと出世を重ね、ブロードウェイのスターになる。

華やかなパーティーの会場で情婦に再会したダンサーは、空想の中で彼女とロマンティックに踊るが、現実の彼女は彼を歯牙にもかけない。寂しくパーティーを後にした彼は、かつての自分と同じように夢を求めてやって来た若者を目にして気を取り直し、画面を埋める多くのダンサーと楽しく踊りフィナーレとなる。

ジーンは当初、アシスタントのキャロル・ヘイニーを情婦役に抜擢するつもりだった。

しかし、フリードはヘイニーの庶民的な風貌が情婦役には合わないと言って反対した。最終的に相手役はフリードの意向通り、シド・シャリースに決定する。ヘイニーはかなり落胆したようだが、それを表に出すこともなく親切に指導してくれたと後にシャリースは感謝と共に語っている。

彼女は前年の出産以降に増えた体重を落とし、タバコの煙を鼻から出せるように練習して、男を魅了する魔性の女を演じる準備を整えた。

※本記事は、2021年2月刊行の書籍『踊る大ハリウッド』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。