第一章 愛する者へ 6

若葉の二十歳の誕生日の夜、霞は例年どおりにバースデーケーキを用意してくれていた。

二人だけになってからもホールのケーキを購入し、三等分して、その一つを新の仏壇に供えていた。

「誕生日おめでとう」

若葉の向かいに座った霞は、デパートの包装紙に包まれたプレゼントを若葉に差し出した。

若葉は中身がピンクの財布であることを知っていた。

――どうせプレゼントするなら、欲しい物をあげたい――

そのように思っていた霞は、毎年、事前に若葉に欲しい物を確認していた。

「それと、これ」

霞はDVDの入ったケースを若葉に差し出した。

包装紙を開けていたところだったので、咄嗟のことに、

「あっ」

と声を出してしまったが、

「ありがとう」

と笑顔を作って受け取った。

若葉には霞に確認したいことがあったが、やめておいた。

新は紺の背広を着て、右手には茶色の液体が入ったグラスを持っていた。

「若葉、二十歳の誕生日おめでとう」

新が右手を伸ばしてグラスを画面に近づけた。

「お願いがあるんだ。成人式の記念写真を父さんの仏壇に供えてほしい。父さん、見たいんだ」

「パパ」から、「父さん」に変わっていた。

「着物は、母さんがおばあちゃんから受け継いだのを着せたがっていると思うけど、気に入らなかったら、新しいのを買ってもらいなよ。母さんには言っておくから」

新が大きく頷いた。

「若葉、きれいなんだろうな……父さん、見たかった……」

新は寂しそうに笑った。

「お酒は飲まない方がいいよ。父さんも母さんも弱いから、きっと若葉も弱いと思う」

それから沈黙が続き、新の目が潤んできた。

「若葉、幸せになってほしい。心からそう思う。何が幸せなのかは人によって違うけど、これだけは言える。若葉がいたから父さんは幸せだった。若葉と過ごす時間がとても大切だった。若葉が成長していくのを見るのがとても楽しみだった。若葉、本当にありがとう」

新の目から涙が流れたが、表情は穏やかだった。

「じゃあね、母さんのこと、よろしくね」

念のためにティッシュを用意しておいてよかったと思うとともに、これでメッセージは最後かと思うと、寂しくなった。

『好きな人ができたら』も観てみようと初めて思った。