3人は展望台のすぐ東側のらせん状のヴィーナスブリッジを下って異人館通りに出ると、東に向かって歩き、北野坂を上がってトーマス坂の手前に着いた。休日でもあり、辺りは賑わっていた。

「異人館の中を見るのに入館料がいるんや。俺たちにとったら安い金額やないから、外から見るだけにして、ブラブラ散歩して雰囲気を味わおうや」と勉が言うと、茂津は、

「どのくらいの額の入館料だい?」と尋ねた。

「だいたい500円くらいのとこが多いんとちゃうか。中には1000円近くするとこもある」

「へえ~、そうかい。デートでもねえし、別当の言うようにしょうぜ、どうだい、宗」

「もちろん賛成や。元々、小遣いも多ないしな」

3人は東に向かって歩いて、英国館・仏蘭西館などを巡り、こぢんまりとはしているものの、異国情緒を味わった。そこから北に進んで石畳の小道に入り、ゆるやかな坂を上がった。しばらくして西に曲がると、風見鶏の館・萌黄の館の周りを散策した。

3人は風見鶏の館の前の北野町広場の階段に腰を下ろした。茂津は、

「俺はこの北野あたりは初めてだけど、異人館も想像していたよりは多く残っていて、良いところなんだなあ。だけど遠くないところに、ケバケバシイ建物もあるみたいで、意外な感じだなあ」と言うと、勉は、

「せっかくのエキゾティックな雰囲気が台無しや」と続けた。

宗は、「そうや、ちょっと歩いたら、いかがわしいホテルもある。なんでこんなところにそんなもん建てるんやと思う。建てるのを何で許すんか分からん。日本人は善悪をはっきり言う勇気がないんかと思う」とまた神妙な顔つきで続けた。

「こんなところに、いかがわしいホテルを建てた奴は、許せんのや。役人たちが建設を許すんなら、役人にも罰を与えてまえ! 法に触れへんと言うなら、法を変えてしまえ」と語気を強めた。

勉は「おいおい、気持ちは分かるけど、そこまで言うんは言い過ぎやで」と言った。

茂津は例のごとく、「宗、お前もいつかそういうホテルを使うことになるぜ」と茶化すと、またもや、「俺は、欲情処理専用ホテルみたいなとこには、行かんで!」と、怒りをこめて噛みついた。

茂津は大笑いしながら、「ほらほら、また始まった。恋人同士が使うなら別にイイじゃん」と続けると宗は、

「何を言うんや。欲情にまかせて絡み合うヤカラが使うもんやないか。理性のカケラもない、欲情だけを持つケダモノたちの巣やないか!」と切り捨てた。

勉は、「宗、まあそこまで言うなよ。そんなことばっかりでもないやろ。茂津もそう茶化すなよ」と仲裁するように言った。これを聞いた宗は照れくさそうに、

「俺もついつい熱なって、カッとしてもた、すまん。たしかに、ちょっと極端やったなあ」と言うと、

「お前はいい奴なんだけどさ、潔癖過ぎるというか、理性的過ぎるというか、カタ過ぎるぜ」と茂津が応じた。

勉は「もうええやんか、その話は終わりや。ちょっと歩いて喉も渇いたし、お茶でもしに行こうや。この坂を下ったあたりに、老舗のうまいコーヒーショップがあるんや」と提案すると、2人は「おう!」と言ってうなずいた。

北野坂を南にしばらく下って阪急電車三宮駅前の道路に出ると左に廻り、三宮の中心を南北にはしるフラワーロードを渡って、老舗のコーヒーショップに入った。そこは、JR三宮駅のすぐ北でもあり、場所柄から常連客も多かった。

※本記事は、2021年3月刊行の書籍『海が見える』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。