1年に一度の遠足であるから、何日も前から僕は準備をして、出掛けるための洋服を誂(あつらえ)たり、リュックや、靴、お菓子を買って貰ったり……遠足に出掛ける少し前になると、幼稚園の先生が皆を集めて園児達に、言い聞かすように話をしたのだった。

「皆さん、遠足で少し遠くまで行きますが、いつもの様に、通園して来る時と同じように気楽に来てくださいね! 普段着のままで良いですからね」

僕はその時、先生が「普段着で遠足に行きましょう」と言ったのだから、「僕も普段着にしなくてはいけないなッ」と強く思ってしまい、遠足の当日の朝になって、母と喧嘩をしてしまった。

それは、母が遠足用に新しい洋服(ブレザーと半ズボン)、靴、蝶ネクタイ等を用意してあったのだが、皆普段着で来るから「僕はそんなものは着て行かない」と駄々(だだ)を捏(こ)ねて母を困らせたのだった。

その時に母は

「先生がそうは言っても、皆新しい洋服で来るから、お前だけ恥ずかしいよ! 新しい洋服を用意できない家庭もあるから、それで先生は普段着で来なさいと言っただけだよ」

と言ったが、それでも僕は頑(がん)として、

「新しい洋服は着て行かない」

と言い張った。そうすると今度母は

「それじゃ~ァ、100円あげるから、着て行ってちょうだい」

と言い出した。その当時の僕にとっての100円というお小遣いは破格の額であった。そんな事にすっかり騙されて、でも、100円のお小遣いを貰って、尚且(なおか)つ、新しい洋服まで着せて貰い、心の中では僕はやっぱり少し喜びながら遠足に出発して行った。

そういう頑とした、少し変わった性格の幼児期だった。

※本記事は、2021年3月刊行の書籍『人生には、大きなチャンスが何回か訪れる』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。