「おっ、いいね。それじゃあもらおうかな」

「ショウガにします? それともニンニクにします?」

「う~ん」

「両方おつけしますね」

ますます嬉しい。どうせ一人で飲むのだからニンニクの臭いがしても全く問題ないのだが、帰った後で女房から何か言われると面倒だ。でも一切れぐらいならニンニクでもいいだろう。

「どうぞ。もちがつおです」

艶やかでモチモチのかつおが八切れ。そしてこれまた浜松名産の新玉ねぎのスライスが添えられて、醤油の小皿はショウガ用とニンニク用にそれぞれ一皿ずつ。大将、わかってるね~。俊平は早くも一杯目のビールを飲みほした。

「いらっしゃいませ~」

今度はかなりのショートヘアでミニスカートのお姉さまがご来店だ。お姉さまといっても俺と同じぐらいかな。少し年上かもしれないな。真っ赤な口紅を塗ってまつ毛は爪楊枝が十本はのるかというぐらいカールされている。

「あ~、月子(つきこ)さん。今日もお店の前に寄ってくれたんですね。ありがとうございます。ビールでいいですか?」

どうやらどこかのお店のママらしい。

「そうなのよ、大ちゃん。今日なんて給料日前の月曜でしょ。な~んの予約もないから携帯に予約の電話が入るまでここで飲んじゃうもん」

おやおや随分と自由な店だな。でもなんだか面白そう。だんだんと楽しくなってきた。ただ初めての店で長居するのもなんだな。焼酎のボトルでも入れてまた来ることにしよう。

「大将また来るから。おすすめの米焼酎を何か一本入れてお勘定してくれる?」

「ありがとうございます。それではこちらにお名前を書いていただけますか? ボトルに付けさせていただきますね」

「鈴木俊平」なんだかフルネームで恥ずかしいけど、まあいいや。

「鈴木俊平さんですね。ありがとうございます。僕は大輔っていいます。花里を始めて三年目でまだまだですけど今後もよろしくお願いします」

アイロンがしっかりかかった白衣姿の大将は若いのに料理も接客も丁寧だ。髪型が流行りのツーブロックなのは誰か憧れの芸能人でも真似ているのか。そのあたりは若さがあって好ましい。

大満足でその日は家路に着いた。

※本記事は、2021年3月刊行の書籍『微笑み酒場・花里』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。