グッド・コイン

闇の非合法のサイト『怨み・ハラスメント』に一つの投稿が届いた。

差出人は、『関ケ原団地』に住んでいる『橋本直美子』という中学生だった。

仮想通貨『グッド・コイン』のせいで家庭崩壊を起こしている私の友人を助けてあげて下さい。

『グッド・コイン』は悪魔の通貨です。専用サイトを通じて、ほとんどすべての商品が10%OFFで買い物ができ、保有していることによってその通貨のレートが上がり価値も上がりますが。その通貨は決まった『元締め』からしか買えないシステムになっていて元締めにはさらに先の元締めがいて、いわゆる『マルチ商法』になっています。

その上、そのグッド・コインは、『持っているだけで幸せになれる』という魔力があるとかで、その魅力に取りつかれた人は人格崩壊して無気力人間になってしまいます。

私の友人の父親はコインのせいで金の亡者となり、母親は人格崩壊。友人も希望を失って自殺願望を口にするほどです。

友人の『利根川ドイル』君を通じて警察に相談し、明智刑事という方にそのグッド・コインについて調査していただいたのですが、その実態は闇に包まれていて、解明ができないそうです。

私はただの中学生で何の力もなく。友人の利根川ドイル君は今までいろいろな難事件を見事に解決してきたのですが、今回ばかりは何か見えない力に押さえつけられているようで、解決の糸口さえ見えません。

平和で緑の多い私たちの団地が、黒い欲望に蝕まれています。

どうかこの関ケ原団地をグッド・コインの魔の手から守り、私の友人を救っていただけないでしょうか。

闇サイトの管理人で、『怨み・ハラスメント』の女司令官・須戸麗花は、執事兼用心棒のハインリヒ・フジオカに尋ねた。

「フジオカ、この投稿どう思う?」

「はあ、『グッド・コイン』は今話題の通貨ですが、仮想通貨でマルチでしかも宗教法人ですからね。相手にするのでしたら相当厄介でしょうね」

「ああ~そうだな。よしこの投稿の団地でのグッド・コインの状況と、特にその『元締め』について、山田くんに徹底的に調べさせろ」

すぐ山田くんから返事が来た。

「はいは~い山田でございます。『コイン』と掛けて『ボインの唄』と解く。その心は、『大きいのがボインなら~小さいのはコインやで~』」

「全然謎かけになってないぞ、座布団取れ! さっさと報告しろ」

「は、はい司令官。どうもこのグッド・コインはこの関ケ原団地にかなり蔓延しているようで、団地内の三割から四割の世帯が何らかの被害を受けてますね。自殺者も何人か出ているようです。中元締めみたいなのが五人いますが、それを統括している元締めが、この八海山という男ですね。慎重な男ですが意外と小心者で、脇は甘いところもあります。元締めになってから家族でよく海外旅行に出かけるなど、羽振りが良くなっているようですが、もともとは普通の家庭なので、まあ『成り上がり』で、あぶない筋に直結していることはないようです」

「そうか、じゃあ今回はこの元締めをつぶすかな」

「あと司令官。余計な情報ですが、また『死神湖』がよからぬ動きを始めてるようです」

「なにいいい? 死神湖⁉」

その名前を聞いて、須戸麗花お嬢の顔色が変わり、まるで昔の少女マンガのようなその大きな目をさらに大きく見開いた。

「お嬢様、その『死神湖』というのは……」

「ああ、『亡霊酒場』とかいう最低の闇サイトを主催しているババアのハンドルネームだ。一見至極常識人を装ってはいるが、その実悪意の塊のようなサイトで、このブラックホールのようなサイトに取り込まれたものは、何人も廃人になったり、死に追い込まれたりしているらしい」

須戸麗花は珍しく感情を露わにして、唇をかみしめている。

フジオカは、須戸お嬢様が闇サイトに敵意をむき出しにするなんてまるでネタのようだな、と思った。