えっ、もう転院ですか?

入院している時に、集中治療室の担当医師から、リハビリ専門病院の先生が来られることを聞いた。

そして私は言われた。

「うちの病院は年末年始、リハビリはお休みなんですよ。あなたはまだ年齢的にも若いので、リハビリを1日でも早く始めた方がよいです。今日ちょうど、そこの先生がお見えになります。お目にかかってください」

『私、若い? もう46ですが』と心の中でつぶやきつつ、

「あ、はい、分かりました」

と答えた。少しして、リハビリ専門の病院の先生が来られた。車椅子に座っていた私と目線を合わせるように中腰になられ、

「大変でしたね。大丈夫ですか?」

と話し掛けてくださった。そして、リハビリを1日でも早く始めることが回復につながることを教えてくださり、

「うちに来られて、リハビリ頑張りませんか?」

と、言ってくださった。私は、心の中で、

『まだ倒れて間もないし、一般病棟にも移ってないけれど……』

と思ったものの、

「はい、よろしくお願いいたします」

と答えた。先生は柔らかい笑顔で、

「お待ちしています。頑張りましょう」

と、言って集中治療室を後にされた。退院間近、看護師にシャワーを浴びさせていただき、髪も洗っていただき、本当に嬉しかった。恥ずかしさよりも、倒れる前からの汗をすべて流していただいたことの嬉しさが勝っていた。

短期間だが、命を救っていただき、懸命に対応してくださった、すべての病院スタッフに感謝の気持ちでいっぱいになった。

転院前日の夜、十日間程の入院生活はあっという間のようにも、長かったようにも感じた。ともかく、間違いなく、私は命を救われ生きている。

もし、すべてのタイミングや何かが違っていたら、私は今ここにはいないかもしれない、そして無事に転院を迎えることはできなかっただろう、とベッドの中で考えながら眠りについた。

追憶

意識不明の重体状態の時、私はある体験をした。

心霊的なこととか、あの世があるとか、信じていない訳でもないが、完全に信用している訳でもない。

今から、お伝えすることは『夢でも見ていたのではないか?』と思われることかもしれない。あくまでも、私が体験したこととして、読んでいただければと思う。

私は透明な球体の中に入って、薄曇りの靄もやのような空中を漂っていた。その球体はシャボン玉のように消えてなくなるものではなく、少々柔らかいプラスチックのようなものだったろうか。

そして、私はその中で、自分の存在を確認した。

「あ! 意識あるけど体がない!」

「お気に入りの着ていた洋服や靴、バッグもない!」

『ヤバい、これって死んでいるのか?』